海に溺れた貴方は  



3Z。短文

聞き飽きた世辞に嫌気がさして飛び出した先には、皮肉に笑う先生がいた。先生は俺をお子ちゃまだと嘲笑う。その顔に少しの羨望が混ざっていることに気づいてしまった。

「俺ァ大人になりたくありやせん」

強がりでもなく、そんな言葉がするりと突いて出る。それに先生はまた嘲笑った。そうした後は、まるで安心したように、隠れて微笑するのだ。大人の都合ってやつだろうか。先生の心の内が分からなかったが、分かりたくもなかった。分かってしまったら、子供のままではいられないような気がした。だからと言って、先生がそんな顔をするのを黙って見ていることは出来ない。大人を分かりたくはなかったけど、先生は守りたかった。

「先生、」

振り返った先生にそっとキスを落とす。微かに開かれたその目を見つめて、俺は口を開いた。

「俺ァ大人になりたくありやせん。大人の事情を知るのなんざ真っ平ごめんでさァ。だから、先生が大人の事情ってやつに逆らえないなら、」

それなら、

「俺は、俺のまま、先生を守りやす」

先生の目が、眩しそうに細められた。口は緩やかな弧を描き、ふっと微かな笑い声が溢れる。「青いねェ」なんてからかうような口調で先生は言ったが、その顔は満更でもなさそうだった。

「その青いのが、アンタの将来の旦那ですぜ」

なんて本気で言うと、「ばーか」と小突かれる。そうして先生は、笑った。

「期待してるぜ、将来の旦那さんよ」




End



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