PM6時に摘む花2


なんだって沖田さんの介抱なんてしなくちゃいけないんだ、くたばればいいのに、とか思いつつも、でも手は止まらない。

「…出てけィ……風邪なんざ…いてるわけ…ェだろ…」
「ろくに喋れない状態で何言ってんですか。早く、あーもう、どうしたらそんなになるまで拗らせれるんですか!?ただの風邪でしょ」

ただの風邪。ただの風邪…だよね。
自分で言っておいて、少し怖くなる。

沖田さんは返事をする気力も尽きたようで、はぁ、はぁ、と辛そうな呼吸音が聞こえるだけだ。

「……もう!ちょっと待っててください、すぐ戻ってきますからっ」

布団を掛け、部屋を出る。
すぐに女中さんを捕まえて医者を呼ぶよう言い、また、看病に必要なものを聞く。それから土方さんに事情を話し、物を揃えてすぐ戻った。

沖田さん、と声をかけるもやはり返事はない。出ていった時と全く同じ格好である。

「こっち向いて。枕無いとしんどいでしょう、布団に移って貰えます?あー酷い汗…ほんとこれどう拗らせてんですか、自分にもドS発動ですか」
「……うつりやす…ぜィ…」
「はい?風邪がですか?いいえ、私はどこぞのサド王子曰く馬鹿らしいので、風邪は引きませんのでどうぞご安心を」

持ってきた水桶からタオルを絞り、顔の汗を拭う。
それから冷えピタを額に貼り、体温計を脇に差し込んだ。

「隊長、布団」
「…無理」
「そうは言われても」
「………祐季」
「はい?」
「……こっち、…来なせェ」

冷えピタを貼ったことで少し熱が取れたのか、目を開いて沖田さんが言う。
仕方なく言われた通り近づくと、不意に頭を上げ、正座をした私の腿に ぽて、と乗せた。

………はい?

物凄く端に乗ってしまいしんどそうなので、慌てて奥へ乗せ安定させるが、いや待てと。
私もほぼ無意識に協力しちゃったけど、あのこれ、…膝枕、って、言うよね。

私も隊服に着替えている訳ではないので、しかも乱雑に座ったので腿が丸出しになってしまっているが、

「あー……」

どうも温度が低いらしく、気持ち良さそうに眠られてしまっては払いのけられる訳もなく。
しかも相手は病人だ。

「…あのー…隊長?何の…」

何の嫌がらせですかこれは、と言い掛けて、何でもないです、と誤魔化す。

いや、ね?深い意味はないよ、ただ沖田さんがあまりにも辛そうだから、同情っていうか。
まぁ道具が全部手の届くところにあるのが救いだ。

「…沖田さん、眠れます?」
「…んー…」

ピピピ、と体温計の音が鳴る。さっと抜いて見ると、38度4分だった。
沖田さんは確か平熱35度弱だったはず、人間2度変わるとかなりしんどいって言うよね。

確実に熱。病気だ。

「お医者さん呼んでもらったので、後で見てもらいましょう。それまで寝てて下さい」
「…ん……祐季…」
「なんですか」
「………」

しかし沖田さんはそれ以上何も言わない。
なんだよ、気になるじゃないか、でもこれ以上睡眠妨害するのもな…。

ていうか動けねえ。ああ、女中さんに看病頼めばよかったんだ、と今更気付く。

まぁ、ここに居るつもりだったけどさ。
病気だとどうしても心細くなるものよ、と女中さんは言っていた。その気持ちは分かる。

それに沖田さんなんて、姉のミツバさんと二人だったって言うし、母親の温もりを知らないから、尚更。

…とか、何考えてるんだろ、私。
あっれー、私相当沖田さん嫌いだったはずなんだけどな、いつの間に情が移ったかな。

心なしかさっきより楽そうに眠る沖田さん。
落書きでもしてやろうかと思ったけど、それはまた元気を取り戻してからにしよう。
死ねなんて何度も言ったけど、やっぱり命は大切だから。

正座は正直辛いものがあったけれど、時折汗を拭ったりなんだりして、私は自分で自覚するほど甲斐甲斐しく看病を続けた。



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