29…うらあああッ!
ああせめて、一矢くらい報いてから死にたかった。 あと、沖田さんと喧嘩別れなんて、沖田さん責任感じるんだろうなぁ。 私が死んだら祐季さんはどうなるのかな。もし戻ってくるなら、それが一番なのかも。
ああ、でも。 守るもの。欲しかった。 命張って、死にたかった。 もっと、バカなことして、いた、かった、もっと、
「…ッうらあああッ!」
最後のありったけの力を込め、首を掴む手に爪を立てる。 ギチ、と血が噴き出し、それが頬に当たるのを感じた。 よ、よっしゃあ。ちょっと、スッキリ、したぜ。 締める力もちょっとだけ緩んだが、
「…ってめぇこのクソアマ!痛ぇだろうが!」 「くあっ…!」
更に強い力で締められた。 締める、ってか、これ、折れる、んじゃ、…ねー…の…。 いよいよ意識が朦朧としてきた。 こちらに来てからの記憶が、走馬灯のように蘇る。
最初に出会った、坂田銀時。
のっけからテンション高くて、なかなか信じてくれなくて、女の子に食べ放題奢らせるような人間のクズで。 でも、私が住むのを許してくれようとしてた。私は凄く嬉しかった。
真選組の鬼の副長こと、土方十四郎。
瞳孔かっ開いてて最初はビクビクしてたけど、思えば一貫して優しかったのは彼かもしれない。 上司であり、兄のようであり。一番信頼できる人。
通称ドSの貴公子、沖田総悟。
初めは敵視されてて、土方さんとは違う意味で本当に怖かった。特に好きなキャラだったから、嫌われるのは辛かった。 でも、誤射した時一番早く駆け付けてくれたのは彼で。今日だって私を楽しませてくれた。
地味だけど人一倍優しい山崎退。
ただひらすら地味で、途中で存在を忘れちゃうような人だけど、私の為に眠い中待ってくれたり、気を遣ったり。 本当にいい人で、それに私が一番仲良くなったのは彼だ。
4人の顔が次々と思い出される。 その瞬間――私の感情は爆発した。
「…んな逆ハーみたいなフラグ立てたまま死んでたまるかァァァ!!」
「!?な、何だコイツ、突然元気になったぞ!?」 「成人でも…乙女ゲーみたいな恋がしたいんじゃボケェ!!おねーさんなめんなよ!!もう同級生に一人結婚したやついるんだよォォォ!!」 「は!?お前突然何の話して―」 「銃いただきィィッ!」
雄叫びと共に無理矢理逃れ、銃を持った奴に突進してそれを奪う。 よっしゃああ!祐季ちゃんやれば出来る子!!
「ッげほげほ!げっほ!っああー…酸素美味しい…」 「ちょっと甘く見てたようだけど、おねーさん。こんな男相手に付け焼刃の銃で勝てると思ってるぅ?」 「ふふん、付け焼き刃かどうかは自分の目で確かめなされ!」
無理くりテンションを引き上げ、どうにかこの状況を打開しようと試みる。 とにもかくにも、銃は貰った。これさえあれば…うん、この人数なら、『頑張れる』。 勝てるとは思えないけど、頑張れる。
「つうか、ここにきて誰も助けに来ない時点でヒロイン資質ないんじゃねーの?」 「グハッ」
痛恨の一撃。 首絞めより痛い。精神攻撃なんてズルいぞおおお!
「ヘッ。さてさておねーさんよぉ。随分威勢よく構えてるけどさ〜ぁ?本気で俺らのこと撃てんの?」 「―ッ……」 「勘違いしちゃってたら悪いんだけどぉ、俺らは別にテメェを殺しちまっても構わないんだぜ?ナカミが無事ならよ」
…確かに、人を撃ったことはない。 ゴム弾でなら昨日散々撃ったけど、実弾は物や人形に向けてしかない。 私は、人を殺せるのか…?
―「悔しかったら、テメーの命張ってでも守りてェと思えるモンを見つけるんだな」
守りたいものが無い私に。 人を殺せるのだろうか。
「おやー?ビビって声もねぇか。ま、いーや。――やれ」
その合図と共に、刀を持った男らが勢いよく近づいてくる。 慌てて弾を放つ―が、やはり、心臓や頭は狙えない。 一番近い男に狙いを定め、一発。利き手に命中し、血を噴き出して崩れ落ちた。
「っ……」
自然と顔が強張りながらも、次々と相手は迫ってくる。 手、足、手、腕、腿、脛、手首、足……。 当然のことながら、昨日とは違って―肉が弾け、そこから血が流れ、男達は呻き苦しみ、倒れこんでいく。
「…っはっ、…はぁっ、…」
息が乱れ、手が震えてきた。 反動で肩が痛い。この銃さては安物だな。
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