30おらぁっ!


「おらぁっ!」
「!」

突然の大声に一瞬驚き、振り向きざまにパンと撃ち放つ。
するとそれは、…相手の脇腹に命中した。

「ぐっ…!」
「あ……」

撃ってしまった。
撃ってしまった。
殺し、た。私が。

「あ……あ……っ」

あれ、…膝が笑ってらぁ。
あれ、…さっきまでの威勢はどこいったよ。
なんで、手に力、入らないの。
私を殺そうとした人間なのに。私を殺そうとしている人間なのに。立派な正当防衛なのに。なのに、なのになんで――

私が止まったその一瞬をつかれ、―気づいたら目の前に銃口が向けられていた。

「あばよぉ」

リーダー格の、あの人だ。この人も銃だったんだ。
真っ黒な数ミリの銃口が良く見える。
もうダメか。結局誰も来なかったな。そう思ったとき――







「……ったく、昨日今日銃の扱い習得したような女が何いっちょ前に戦ってるんでィ。駆け付け甲斐の無い女でさァ」





バシッ、と鋭い音と共に、目の前の銃口が重力に従うまま落ちていった。
トリガーに掛けられた指も、銃を構える腕もそのままに。
切り取られた肉の断面が見える一瞬前に、相手は蹴り飛ばされ路地の更に奥へと転がっていった。
ガン!と狭い路地で何かにぶつかり、静かになる。

「……」
「何ぼーっとしてんでィ。危機一髪のところを助けて貰ったのに礼の一つもねーんです?」
「……あ……」
「ハァ、まぁいーや。屯所でじっくりと責めるとして…ひとまずはこいつらの掃除が先ですねィ。―その首の傷」
「…え?」
「手で締められた痕がくっきり残ってらァ。…痛みやす?」
「あ…いえ、今は」
「んなら手伝いなァ。おら」

懐から私が使っていた拳銃を取り出し、安全装置をバキッと折って渡された。
まだ状況を飲み込めないものの、一応受け取る。
えっ、と……。

「手伝って、いいんですか?」
「手伝え」

すぱっと言い切られる。
それを聞いて、ぎゅっと拳銃を握り締めた。
…ありがたい。
土方さんとか近藤さんとか、他の人だったらきっと、女は戦わなくてもいいとか何とか言って、立たせてもらえないだろうから。
深呼吸し、しっかりと立つ。
自然と背中を合わせるような形になった。

「…祐季」
「はい」
「急所は狙わなくていい。トドメは俺がさしやす。その代わり後ろ、頼みますぜ」
「……はい!!」

頼られる喜び。
強くなって良かった。
力になれて、本当によかった。
手の震えは止まっていた。
体調も悪くない。
元気も――取り戻した!

「いきやすぜィ」

呼吸を合わせ、隙を生まないように攻撃を開始する。
さっきまでの不安感は、背中越しの温かみにすべて溶けていったようで、私は自分でも分かるほど高揚した気分で銃弾を放っていた。

―見つけた。
私、この背中を守りたい。
いつでも駆けつけてくれた、この人のために、この人のように、強く、

「―沖田さん!」
「何でィ」
「貴方は死なない、私が守るから!!」
「あ、今そういうのホントいいんで」
「ぎゃあああそういうドSなところが大好きです!!」
「そうですかィこの雌豚が」
「沖田さんを肯定できるなら雌豚でもいいですよ!今だけですけど」
「無事に屯所帰ったらキッチリ調教してやりまさァ」
「ええ無事に帰りましょう!」
「都合のいい耳してやがる」
「褒めてくれるなんてツンデレですか!」
「それくらいにしないと間違って斬り捨てやすぜィ」
「すいませんっしたァァ」



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