暗い闇の中を漂っている。
身体の自由がきかない。
闇が身体を支配していくようだ。

"抗うな"

まただ。頭の中を掻き乱す声。

"偽るな"

何を?

"己の心に問うてみよ。お前がよく知っている"

意味がわからない

"目を逸らすな"

煩い

...

「...お...ゆきお...」

ん?

「ゆきお!」

兄さん?

「起きろ!雪男っ!雪男!」

はっとして目を覚ますと、目の前に燐の顔があった。一瞬、燐と目が合って雪男は反射的に顔を上げてしまった。

ごちん と鈍い音がして二人は額に手を当て悶絶した。

「ーーっつ!・・・兄さん、何してるの?」

「な、な、何もしてねー!つか、急に頭上げんじゃねー!いてーじゃんかよ!!」

どうやらまた魘されていたようだ。
痛みと驚きで一気に目が覚めた雪男は
あの忌々しい夢から開放されたことに安堵した。
兄さんのお陰...かな。

まだ額に手を当てて転げ回る兄を見て、雪男は急に可笑しくなって吹き出した。

「なに笑ってんだ!叩いても起きねぇから心配したんだぞ!...」

「そ、その、なんだ、俺なんか頼りないけどよ、話してみろよ。
これでも一応、お前の兄貴だからよ!
...ま、お前に言わせりゃ、仮初めの兄だけどなっ!」

「...気持ちだけうけとっておくよ。心配かけたね。さ、こんな時間だ。支度しないと」


ーーーーー

雪男の様子がおかしい。ここんとこなんか変だ。はぐらかしてばっかりで話もろくに出来ない。
もしかして、俺の成績が悪いからか?!答案用紙みて胃が痛いって言ってたしな...
いや、昼の弁当がまずいのかな。
最近残してるみてーだし
うーん...


「...らくん」

ん?

「奥村くん?」

!!

「ぬぁ!はいぃい!聞いてます聞いてます!」

「はぁ...いつにも増して今日はぼーっとしてるね、君!」

「...スミマセン...」

しゅんとなって席についた燐をしえみが優しく励ました。
そうだな、俺頑張らねぇとな!
と気合いを入れ直す燐だった。


塾が終わり、それぞれ帰り支度をしている時だった。

「ね、ねぇ!みんな!今日、勉強会...するってどうかな...」

すかさず、志摩が食い付く。

「おっ杜山さんからの提案て、珍しいなぁ...!杜山さんからの誘いや、坊も子猫さんも行くやろ?!もちろん、出雲ちゃんもな!」

そんなやり取りを他人事の様に楽しげに聞いている燐を見て、勝呂が痺れをきらした。

「おい、奥村!お前も来いよな!落ちこぼれのお前が来やへんかったら勉強会の意味あれへんからの!」


突然、話題を振られすっかり帰り支度を済ました燐は慌てて答えた。

「お俺ぇ?...あんまし遅くなったら雪男にどやされちまうんだよな。最近あいつ変だし...」

「阿呆!杜山さんが折角気ぃつこて言うてくれてはるんや!相変わらず鈍い奴やなぁ!お前はっ!!」

「みんなで秘密で勉強して、いい点取って、奥村先生びっくりさせたらええんとちゃいますか?」

勝呂の後に子猫丸も続いた

そうだよな。みんな、こう言ってくれてるし、ちっとはいいとこみせなきゃ、兄貴の名が廃る、よな...!なにより雪男に超えてやると言っときながらこれじゃ示しがつかねぇ...

勉強は帰ってから雪男に教えてもらうという約束をしていたが、雪男には任務に付け加え、教師としての仕事もある。多忙な弟のことを考えた。
せめて、勉強ぐらいは自分でなんとかして驚かせたいと、燐は思った。


「よぉおし、勉強会しようぜ!」



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