幼い頃は兄の背中ばかりみていた。自分には出来ないことを兄はやってのけた。自分にはないものを兄は持っている と幼いながらに理解していたし、なによりそれが羨ましかった。
問題ばかり起こしていた兄だったが、雪男にとっては大切な存在であった。

だがあの日
父の導きにより祓魔師を目指そうと思ったあの日から何かが少しずつ変わっていった。

"僕はもう二度と
闇に怯えて生きたくない"

そう、人は、いつまでも子供のままじゃない

父や修道院の皆の手を焼いているにもかかわらず、悪態ばかりつく兄を少し疎ましく思うこともあった。

父が死んでからは、"自分が兄を守る"と父の墓前に誓った

それなのにーー

兄は自分勝手に行動しすぎる。
兄が動くたびみんなが振り回される。

それどころか、サタンの息子である事実が明るみになり、半年後の認定試験で祓魔師の資格を取得できないと、処刑されてしまうというのに、兄ときたら、腹が立つほど能天気だ。

人の気も知らないで...

雪男ははっとしてふつふつと湧き上がる苛立ちを抑えた。任務中だった。

「おい、雪男ぉ?怒ってんのか〜」

悪戯に茶化す声が聞こえる。
シュラだ。
雪男はクイッと眼鏡のブリッジを人差し指で押し上げ踵を返した。

「最近こん詰め過ぎ。お前そのうち、身体こわすぞ?」

「シュラさんが適当過ぎるんです。それに任務中は私語厳禁ですよ。」

「...お前こそ、今任務に関係ないこと考えてたろ」

雪男はどきっとした。

はぐらかしたつもりが、痛いところをつかれてしまった。
この人は...何にも考えていないフリをして、本当に鋭い。

「シュラさんには関係ない」

目を細め、雪男を覗き見た。
全てを見透かされているようで、雪男は内心ヒヤリとしていた。
祓魔師になる為の修行をしていた時からこの人はずっとこんなだった。
どうも好きになれない とそんな風に思った


「...燐だな?」

「!」

やっぱりなと口元が歪んだ。

「お前は昔っからそうだ。兄貴絡みの悩みはすぐにわかる。とんだブラコンビビリーメガネだな、にゃははは!」

「......」

一頻り笑ったところで、シュラは急に声のトーンを落として雪男に再度話しかけた。

「お前、最近燐絡みになると強引だぞ。なに、焦ってんだ」

「...時間がないんです。厳しすぎる方が兄には丁度いい」

その時、二人の携帯電話がブブブと振動した。任務終了合図だ。
雪男はシュラに背を向け集合場所へと戻って行った。


「あの野郎、...ひとりで背負い込みやがって!」

チッと舌打ちをして、ひとり闇に消えて行く雪男の背中をシュラは仕方なく見送った。




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