陽が暮れ、あたりはすっかり暗くなっていた。
昼間は灼熱地獄のように蒸し暑いが、夜になると時折、涼しい風が吹く

寮の外に連れ出された勝呂は、寡黙な雪男の様子に何事かと思いながらその後ろ姿を眺めていた。

空を見上げながら雪男が独り言のように話し出した。


「兄は、中学の時ほとんど学校に顔を出しませんでした。」

(...?)

「顔を出したかと思えば、問題ばかり起こして...そうそう、時には警察沙汰にもなりましたね」

「...そう...なんですか」

どうして自分にこんな話しを...?という表情を浮かべる勝呂であったが、それでも雪男は話を続けた


「今の兄を見ていると、本当にいい顔をしているーーいい仲間に巡り合えたんだと思います。」

そう言うと勝呂の方を向いて笑顔を投げ掛けた。

「奥村くんを宜しくお願いしますね」

「...」

教壇に立って投げかけるような、いつもの笑顔に見えるが、どこか違うと勝呂は思った。


「...あの、」


「兄を宜しく頼みます。」

勝呂の言葉を遮るようにより強く放たれた言葉に、ただならぬ何かを感じた。
先程までの笑顔はなく、どこか思い詰めたような表情を自分に向けている
まるで、何処かへ行ってしまうようだとーー



******


「えらい、長いことどこ言ってたんですか?」

勝呂が戻ると既に席に着いて机に向かっていた面々が顔を上げる。

「ああ、あれや、ほら、便所や!」

「うまい料理食って腹がびっくりしたんじゃねーか?」

燐がからかう様に言う。

「そ、そや。それや!」

「坊...?」

子猫丸が勝呂の様子がおかしい事に気が付いた。

「ほな、続きしよか!」


(...わざわざ自分だけを呼んで奥村先生は話したんや。
軽々しく言うてええもんやない)

ーーにしても、何かあったんか
コイツら

奥村にだけは言うべきか...

燐の方に目をやる
手垢と汗でしわしわになったノートにひたすら単語を書きながらそれを読み上げている。

(コイツの頭...俺が今、余計なこと言うたら覚えたこと全部消えてまいそうやな...)

何も言わず心配そうに横顔を見つめる子猫丸にも気づかずに勝呂は深い溜息を吐いた。

******


皆を"便利鍵"で送り届けた後、燐は足をもつれさせながら何とか自室まで辿り着いた。

そこには雪男の姿はない。

(あいつ、どこへ行ったんだ...こんな時間に...)

燐はベッドに倒れこむ様にして、横になるとたちまち気怠い眠気が全身を襲う


雪男のヤロー...どうしちまったんだ...

俺はいつも蚊帳の外か...




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