「飯だぞ!飯っ!」

勢いよく扉を開けて厨房から押してきたワゴンを部屋へと移動させると、一同は歓声をあげた。

色取り取りの食材が盛り込まれた料理の数々に香ばしいスープの香り

見た目からして美味しそうだと一同はごくりと唾をのんだ。

「お、奥村、こんな短時間でこんだけの量お前一人で作ったんか?」

勝呂が口をぱくぱくさせて燐に問いかけるとワゴンの後ろからひょっこりと小さな影が動いた。

「コイツが作ったんだ!」
と燐が紹介するとウコバクは照れ臭そうに顔を出した。

「あ、悪魔ぁ!?」

「ああ、あのピエロ...理事長の使い魔なんだけどよ。んー詳しい話は後だ!まあ、食べてみろよ!な!」

理事長の と聞いて一同は個性的なピンクの衣装を身に纏って不気味に嗤う彼の顔を連想した。
私生活など、微塵も感じさせない理事長だ。普段何を食べているかなんてわかったものではない。
表情はますます曇っていく。

燐に促されるまま手を合わせて、いただきますをすると一同は恐る恐る口に含む。


「!」

「お、おいしい!」

口々に出る賞賛の言葉にウコバクは誇らしげに胸を張った。

「すげーだろっ!うめーだろっ!」

燐もまた誇らしげに胸を張る。

「ホンマ、どこに訥がしてもおかしない味ですわ!」

「おま!俺の分残しとけよ!」

水を得た魚のようにガツガツと食らう志磨を見て慌てて燐も加わった。

小さな料理長と、その料理のお蔭で先ほどまでの重苦しい雰囲気は和やかになっていった。



******


「......」


104号室から楽しげな声が廊下に響いて聞こえる。

その声につられるように雪男は歩を進める。
床の軋む音が響かないようにそっと足を擦るようにして...


兄を頭の中から排除しようと思った。
今は顔すらまともに見られない。
見てしまうとあの時のようにズルズルと何かに引きずり込まれてしまう。

それでもーーー

様子を伺うだけだ。
いつも通り"弟"として

そう自分に言い聞かせて来てはみたものの、扉を開けることが出来ずにただこうして息を潜めて部屋から聞こえる声を聞いている。

扉のノブに手を掛けては、辞め
廊下を右往左往している。

こんな所まで来て一体、何をやっているのだと自分でも滑稽に思った。

辞めだ。
引き返そう

そう思ったその時、扉が開いて勝呂が出て来た。

「奥村先生?様子見に来はったんですか?」

「まあ、そんなとこです。」

勝呂は踵を返し、燐を呼ぼうと扉に手をかけた瞬間、雪男はそれを阻んだ。


(...?)

「いいんです。兄を呼ばなくて。それより、勝呂くんにお話ししたいことがあります。」






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