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勉強会一行は旧男子寮へやって来た。
「この寮、苦手だわ...」
以前、塾の合宿で使われたこの寮でナベリウスに襲われたことを思い出し、燐以外のメンバーは立ち入ることを躊躇した。出雲に至っては両肩を抱いてぶるっと震え上がっている。
「だ、大丈夫やでぇ!出雲ちゃんと杜山さんは僕が命にかえても守さかい!」
志磨がここぞとばかりにしゃしゃり出て、出雲としえみの二人をエスコートする。
「失礼だなー俺は雪男と毎日ここで暮らしてるんだぜー」
隣にいた燐が頭をかきながらそのやり取りを眺めた。
ギギギと寮の扉を開けて燐は皆を中へと招き寄せる
燐にとっては聞き慣れた床の軋む音も他のメンバーにとってはより一層恐怖を呼び起こすものとなった
「さ、ここが勉強会場だ!」
燐が"104"とかかれたその部屋の扉を開くと もわわと 生暖かい空気が廊下にひろがった。
窓は開けられており換気はされていたが当然、旧男子寮には空調は完備されておらず、扇風機が二台と長机が数個並べられただけの部屋に志磨は盛大に溜息をついた。
「はぁぁ、これ何とかなりません?せめて、両脇は出雲ちゃんと杜山さんにしてくれなヤル気出ませんわ...」
気の抜けた声と煩悩丸出しの志磨に業を煮やして勝呂は「つべこべ言うとらんと、はよ座らんかい!」と志磨を後ろから蹴り飛ばした。
「...ぶぉん(坊)...!」
蹴り飛ばされて頭から座布団に突っ込んだ志磨がそんな殺生な という目で勝呂を見上げた。
坊、今からこれじゃ身が持ちませんよ と子猫丸が勝呂を宥め、しえみがその横で笑っている。
先ほどまでの緊迫感はまるでどこかへ飛んでいったようだ。
燐は五人に部屋で待つように
伝えると、同じ寮の雪男のいる部屋へと向かった。
雪男と自分の部屋は602号室、勉強会で使う部屋は一階だから、雪男のいる部屋に声が聞こえることはないだろう。
その上、ここで勉強するのだから、帰りが遅いと雪男にどやされることはない!
帰りはピエロ(理事長)から貰った"便利鍵"を使えばみんなを安全に帰せる。
我ながらナイスな思いつきだ!と燐は思ったのだか、それを伝えた雪男の反応は何とも冷ややかななものであった。
「やるのはいいけど、後片付けはきちんとやってよね」
...だってよ!お前は俺のオカーサンかよ!
燐はボヤキ散らしながら階段を降りた。
なんだよ。雪男のヤロー!人が折角ヤル気になってるってーのに
...ま、別に雪男の為にベンキョするわけじゃねーしな!自分のためだ!
そーだ!自分の!
くそっメガネ割れちまえ!
「...なに、一人で遊んどるんや?」
階段の踊り場で何やらブツブツと呟きながらさながら百面相のように表情を変える不可思議な燐の様子を勝呂は一階からじっと見ていた。
(前からおかしなヤツやと思とったが...
急に勉強教えろ言うし、様子はおかしいし...志磨の言うとった通り熱でもあるんとちゃうか...)
「な、なんでもねーよ!ベンキョは自分のためにするんであってだな!」
「はぁ?」
ますますわけがわからないといった表情を浮かべる勝呂に燐は目もくれずにずんずんと歩を進める。
「ちょ、待てや!」
勝呂は仕方なく燐の後を追った。
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