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燐は風呂に入ると雪男に告げて浴室に向かっていた。
歩を進めるたびに、古ぼけた床がギシギシと軋み閑散とした廊下に響き渡る。
建て付けの悪い扉を少し乱暴にこじ開け脱衣所に入ると、木製のカゴにバサリと着替えを放り込んだ。
雪男のやろう、どうかしちまったのか
雪男の最近の様子はこれまでとは、何かが違っていた。
熱のせいだとしてもーー
なんだろう、やっぱり冷たいよな...
雪男は他人に対して感情を剥き出しにするような男ではない。いつも冷静で誰よりも、物事を客観的にみている。
一見、隙のなさそうな雪男ではあるが燐に対しては、教師と教え子という点を除けば普通のどこにでもいる兄弟のように、気を許していた。
そんな、雪男が、最近は自分に対しても壁をつくっているように感じた。
「この、バカメガネっ!」
燐は脱ぎ散らかした服を苛立ち紛れに蹴り飛ばしながら、浴室に入りシャワーを全身にかけた。
やっぱ俺、何かでりかしーのないことしたのか?
考えると、思い当たる節は数えきれないほどあった。
今日、塾の講義の時間に考えていた"これが原因かもランキング"を今一度思い返していた。
・昼の弁当(熱のためたぶん食欲不振なので、違うな)
・試験の点数?
・ベンキョサボってること?
・任務と講師の仕事+学業が忙しいから?(んー雪男はプライバシー...いや、違った。仕事にプライベートなことは持ち込まない?コウシコンドウはしない奴。これも違うな。あいつはサイボーグ並)
・雪男の漫画を汚したこと?(...ひょっとして、ばれた!?)
さすがにこれはないな、と最後のは訂正した。
こと学業のことや、燐の炎の抑制のことに関しては雪男は口煩く、鬼のようだった。
やっぱ、これだ。
ベンキョのことかな
実践訓練は兎も角、机に張り付いての勉強というものが燐は大の苦手だ。
とくに魔薬学、悪魔薬学、グリモア学は散々な出来だった。
×の羅列した答案用紙を思い出して、燐は洗った髪をぶんぶんと振った。
パラディンになるなんて大口叩いたはいいが、これでは、パラディンどころか祓魔師にすら遠く及ばない。
父親に助けられたことが正しかったと皆に証明してみせる為に、此処にきたというのに...
雪男もきっとそう思っているだろう
燐は両手でパンと頬を叩いて、身体もろくに洗わず浴室から出た。
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