今なら、
兄に触れられる
兄の顔に
兄の唇に

手が届く...


思わず、握った腕に力がこもる

「っつ!なにすんだよ!ゆ...雪男!?」

雪男視線に気付いた燐は凍りついたように動きを止めた。
燐の大きな瞳がこちらに向けられている
眼鏡を掛けていなかったが、ぼんやりとその表情がみえる。
兄の瞳に自分はどううつっているのだろうか。

揺れ動いている

どちらにも行けずに宙ぶらりんの感情が今にも爆発しそうになる


今なら...

手を伸ばせば、兄を自分のものにできる。

自分の、弟のまさかの行為にきっと兄は呆気にとられるだろう

力で捻じ伏せて
唇を奪ってーー

ーーたとえ、力づくでも...


一瞬、自分でもゾッとするようなことを考えた。
雪男は燐から視線を外したが、掴んだ腕を放そうとしなかった。


雪男のそんな様子をみて、自分の問いかけも今の雪男には全く聞こえていないような気がして、燐の表情がみるみるうちに曇っていった

言葉を忘れたように沈黙し、あからさまなその表情をみて雪男ははっと我に返る。

自分は何をしようとしているのだ
...
...

内側に篭った熱を吐き出す様に、ふぅと大きく溜息をついた。
押し寄せる感情の波が鎮まるのを待って、雪男は握っていた燐の腕を放してやった。


「ちゃんと食べたよ、兄さん」

「??」


ようやく開放された燐だが、雪男の言葉の意味がわからなかった。
するすると雪男の身体から身を離し、しばし、放心した。


「お粥だよ。」


「...お、お粥か?!そ、そうか?!」


燐はつい先程、鍋の蓋を開けて雪男がちゃんと食べたかどうかチェックしていたことを思い出した。

確かめようとしたから、怒ったのか?

燐は解せないという面持ちで、土鍋の蓋を拾って、梵にのせた。


「...お前、なんか変だぞ!絶対変だ!熱上がってんじゃねーか?」


自分の先ほどの行動によって崩れてしまうかと思ったその関係が、今でもまだ、続いているということに雪男は安堵した。


危なかった
もう少しで、僕は...


今ほど、兄が鈍感でよかったと思ったことはない。


今日はどうかしている...

目頭を親指と人差し指で揉みほぐしながら、雪男は横になった。
欲情に振り回されて、自分を見失うなんて...
それもこれも、全ては熱のせいだ


「そうかもしれない」


雪男は微笑しながら答えた。





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