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兄は軽蔑するだろうか
自分の兄への気持ちを考えると、自ずとそういう思考になる
本当の自分を受け入れるのが怖い
偽るのをやめてしまったら、受け入れてしまったら、今までの全てが消え去ってしまう気がする。
きっと兄はもう、自分に対して笑いかけてくれることも、自分を弟だと思ってくれることもなくなってしまうのだろう
そう思うと、心底恐怖する
一方で、
もう一つの疑問が頭をよぎる
本当に知らなければ、気づかなければよかったのか?
心を偽ったところで、この兄へのモヤモヤとした感情はいつまでも自分に付いて回るだろう。
いずれにせよ、兄への思いが自分でもコントロール出来ずにいるのは事実だ
どちらに転んでも同じ道ということだろうか
...
一度に口に含んだ粥が、今になって熱いことに気がついた。
舌が痺れている
「美味しかったよ。兄さん」
土鍋を椅子に置きながらいつも通りを装い燐に声を掛けた。
漫画を読んでいた燐がくるりと振り返り雪男の傍に椅子ごと移動させてやって来た。
「おぉ?早いな!どれどれ」
弱点である尻尾を無防備にさらし、それを無邪気に左右に振りながら雪男の椅子の上に置かれた土鍋の蓋を開け、残さず食べたかどうかをチェックする燐の様子を雪男は静かに見守った。
すると、どうだろう。兄の横顔を見ているうちに、胸の奥からじわじわと何かが湧き上がるのを感じた。
兄に触れたいという欲求が全身を駆け巡って更に体温を上昇させる
兄の仕草のひとつ一つが自分の胸を締め付けて堪らない
...気が狂いそうだ
失いたくない
そう思うのに、どこかで相反する感情が渦を巻いている
壊してしまいたい とーー
雪男はおもわず燐の右腕をぐいと引っ張り、自分の方へと強引に引き寄せた。
「だっ!?」
引っ張られてバランスを崩した燐は後頭部から雪男の腹めがけて豪快に突っ込んだ。
右手に持っていた土鍋の蓋がベットの隅に落ちて転がった。
「ーっにすんだよ!あっぶねーだろっ ...!わ!おま、近ぇっ!」
仰向けになって頭から雪男の腹に倒れこんだ燐は、その姿勢のまま雪男の顔が至近距離にあるのに驚いてしどろもどろしている。
自分がやったのだと気づいた時には、既に遅かった
握った手から燐の鼓動がとくとくときこえる
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