「37度3分...一体いつからだよ...」

は、は、 と浅い呼吸をしながら、力なく笑いかける雪男をみて、燐は眉を顰めて大きな溜息をついた。


「最近夜も寝てねぇし、弁当残してたし、なんか変だとおもったんだよな!ま、元気出るモン作ってやるから、お前はちゃんと寝てろよ」

氷枕と濡れタオルを用意した後、燐はエプロンを片手に部屋を後にした。


一人きりになった雪男は燐に投げつけた言葉をひとつ一つ思い出していた。

あれは...ただの八つ当たりだ。
最低だな...


雪男は自嘲した
兄を守ると言っておきながら、
本当に守りたいのは自分の欲求心だったのか

なあ、そうだろ?

雪男はもう一人の自分に問いかけるように思った

"......"
肝心なところでは応えてくれない
いつもは煩いぐらいに頭を掻き乱すのに...


******


半時間過ぎただろうか

雪男は枕元の時計に目をやり、時間を確認すると何を考えるでもなく、ただぼんやりと天井をみつめた。

額に置かれた濡れタオルが雪男の体温でじっとりと熱を帯びてしまっている。

部屋の扉が静かに開いて、隙間から粥のいい匂いがふわりと部屋に漂った。
雪男はベッドに横になったまま顔だけをそちらに向けると、扉の隙間からひょっこりと顔を出して雪男の様子をうかがう燐と目が合った。


「なんだ!起きてるじゃんか。寝てなきゃだめだろ?」


小さな土鍋とスポーツドリンクがのせられた梵を雪男の椅子に置くと、燐は自分の椅子を引っ張ってきてそれに腰掛けた。

「ほれ、俺様特製、栄養満点ミルク粥たまご入りだっ!食えねえとはいわせねーぞ?」

土鍋の蓋が外されるとふつふつと湯気を立てて微かにハーブがまじったやわらかい薫りが部屋いっぱいに広がった。

子供の頃よく作ってくれたっけ...

幼い頃、身体の弱かった自分はよく体調を崩して寝込んでいた。
そういう時、決まって兄が粥を作ってくれたものだ。

「昔もこうやって、よく作ってやったよな。ほらよ、お前よく身体こわしてたじゃん」

そう言いながら燐は一口分を蓮華にのせて自分の口元に持っていった。

ふーっ
ふーっふーっ

(...?)

「はい、あーん」

(!?)

「に、兄さん...!」

「なーんちゃってな!だははは」

「もう…」

雪男は顔を真っ赤にして燐から梵ごと取り上げると、熱いのも忘れて次々と口の中に詰め込んだ。

兄の何気ない冗談も今の自分には心の奥を熱くする材料に他ならない

熱のせいだと
思いたかった

気づきたくはなかった。

いっそ偽っていた方が楽だった。

こんな気持ち知ったところで、どうにもならない...

ただ苦しいだけだ



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