物語2・2
 鑑定師のいる場所は日ごとに変わる。
 知っているのはゼノン王子だけで、魔石を届けに行く日の朝に交信で場所を告げられる。
 今日は東の森だった。

 森の上空を旋回し、鑑定師のいる家へめがけてララに降りてもらう。
 木々がひらけた場所には赤い屋根の可愛らしいお家がぽつんと建っていた。
 玄関回りには色とりどりの花が植えられていて、花の蜜を吸いに蝶々がひらひらと舞っている。
 私も寮ではなく、いつかこんな素敵な家に住んでみたい。

 ララは小さくなって、私の肩の上にちょこんと乗った。
 
「ごめんくださーい」

 袋を抱えながら緑色の玄関扉に飾られている鈴を鳴らす。チリンと可愛らしい音である。
 数秒して、パタパタと中で走り寄ってくる音が聞こえた。

 ガチャリと解錠の金属音がすると、扉が開かれる。

「ナナリー! いらっしゃい」

 赤い髪を揺らしてにこやかに顔を出してくれたのは、親友のベンジャミンだった。
 お菓子を作っていたのか、砂糖が焦げ付いたような甘い香りがふわりと漂っていた。

 ここには鑑定師が住んでいる。
 しかし彼女が鑑定師というわけではない。

「遅いのぅ。もっとシャキッとせんかい」
「うるさいなぁもう」

 視線を下に向ける。
 そこには小人型の蝋人形が、偉そうにふんぞりかえってベンジャミンの足元に立っていた。
 さっさとその袋の中身を寄越せと、小人につま先をちくちく突つかれる。

「あがってちょうだいよ」
「お邪魔します」
「おじさま張り切っちゃってるのよ〜。ふふ、鑑定師なんて呼ばれちゃってねぇ」

 ベンジャミンの言葉に、鼻を高々と伸ばしてドヤ顔をする小人。

 そう。
 鑑定師というのは、時の番人のことだった。





 所長たちとモルグの鏡で会話している時に、番人を破壊して処分しようという話を聞かされていたのだが、存在も疑わしい魔石を見分けられるのは時の番人だけなのではとベンジャミンが訴えたので、彼はギリギリのところで処分を免れていた。
 実際問題、短剣に飾られている魔石とそれに似た石を見て、誰もそれを見分けられる人間はいなかった。

 命の恩人であるせいもあってか、今でもおやじはベンジャミンにベッタリである。
 魔石は魔物が生まれてからでないと退魔の魔法が効かないようで、見た目もさることながら判別が難しかった。
 魔石をハンマーなどで粉砕したとしてもただ分離するだけで意味はない。一個が二個、二個が十個となる。
 どんなに小さくなろうと魔物の元には変わりないらしい。おそろしい。

 大陸中で集められた魔石は、番人に鑑定されたのちにヴェスタヌへと送られることになっている。

 一時的にドーランへ魔石(かもしれないもの)を集めることに一部他国から反発が出たそうだが、アリスト博士のことがあった以外は、健全に他国と付き合ってきたドーラン王国である。
 魔石と時の番人のことに関しても、情報を隠さず発信したことを含めて、信頼するに値する国だと見られたのか、時の番人を所持することも理解を得られたそうだった。
 外相である第二王子や外交官達が今まで頑張ってきてくれていたおかげである。
 外交の大切さがこれ程身に染みたことはないと、ゼノン王子は言っていた。

 大陸の向こう側に魔物だけが生息しているという場所があるのも分かっており、近々そちらへ全王国の代表者何人かが討伐に向かうことにもなっていると、今朝の新聞にも書かれていた。
 見出しは【大陸の勇者たち】である。

 魔石を集めて、生まれたばかりの魔物を一網打尽にしていくというのが王様たちの考えであるが、今のところ魔物の発生数に変わりはない。
 進化している魔物も一部いるので、これらのこともまた対処していかなくてはならないのだ。
 魔物が減るのは年単位で先のこととなるだろう。

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