物語2・1
「ヘルさん、この魔石っていうのはどんな特徴なの?」

 依頼を選んでいた破魔士が、一枚の紙に指を突いて首を傾ける。

「大きいものや小さいもの、さまざまな形をしています。色は黒で、鑑定師の元へ送り本物かどうかを見分けます。報酬はそれからとなるので、他の依頼に比べると効率は悪くなりますが……。いつでも受け付けていますので、よろしければお仕事のついでにという形で、見つけたらよろしくお願いしますね」
「へぇ〜。了解。じゃあ俺、今日は害虫駆除のやつ行くね」

 破魔士は依頼用紙を手に取ると、颯爽と魔導所から出発した。

「いってらっしゃい」

 手を振って見送る。
 

 時の番人の騒ぎから一か月が経っていた。
 あのあと魔石についての情報を伝えられた王様は、自国だけで動くのは得策ではないということで、近隣諸国から大陸中へと幅広く魔石のことを伝えた。
 内密に動いてどこからか情報が洩れ、不信感を抱かれて戦争が起きてしまうよりも、大々的に発表して協力していくほうが良いと考えたのだ。

 特にドーランはアリスト博士がシュテーダルに手を貸してしまっていたせいで、あまり下手なことはできなくなっており、他国の信用を失うのは避けなければならない。

 また、魔石があるのはドーラン王国だけではないのだ。
 シュテーダルの欠片はきっと世界中に散らばっていて、捜索できる規模にも限界がある。
 魔石についてはまだまだ未知なことが多く、私も約五日に一度は騎士団で取り調べという名の調査に協力をしている。
 始祖と会話をしたということをあの時初めて話したので、なんでそれを早く言わんのだとばかりに、度々騎士団のほうに呼び出されては情報を提供していた。
 まさか魔石なるものが存在しているとは知らなかったので、私もそこまで重要なものだとは思わなったのだ。

 魔石に関して現在世間での認識は、違法薬物、みたいな感じになっている。
 個人的に持っていたら違法の、危険物だ。そもそも魔物の元となるようなやばい物質を、普通の人は持っていたいと思わないだろう。
 まぁ、その魔石に力があると知らなかったら、の話だが。
 いちおう、王国に提出しなかった場合は罰せられるようにはなっている。

 魔石の力。
 このことだけは一般人に伏せられていた。
 
「ナナリーちゃん、このくらいの金額の依頼ある?」
「ありますよ。今引っ張ってきますね」

 若い男性の破魔士が三本指を立てて、照れ笑いをする。
 300ペガロということだろう。
 席を立って、依頼書が詰められた箱からニ、三枚条件に合ったものを見つけて取り出す。

「これと、これと……」

 トレイズは一年間の謹慎となったそうで、パーティーなどへの出席も禁止となったのだと、この間ニケから聞かされた。
 あの日おこなった身体検査に異常はなく、健康そのものだと聞いていたのでそこは一安心した。
 寿命に関してはまだ調べないと分からないそうだが、今度また詳しく検査機関へ送られるのだという。
 彼女の記憶も保護されてからは曖昧になっていたらしく、ロックマンの所へ行くまでのことはあまり覚えていなかったそうだ。
 それに短剣を刺したのはトレイズではなくロックマン自身だったようで、その光景に心的傷害を受けたのではと医者からは言われたらしい。

「こちらでいかがでしょう?」
「俺イーバルだけど、これ受けて良いの?」
「もうクェーツですよ? この間の依頼で階級上がっていたじゃないですか〜」
「え!? あ、ほんとだ!!」

 肝心のロックマンはというと、翌日には完全に元の姿に戻っていたようで、これもニケが爆速で私の元へ知らせに来てくれた。 
 魔法も申し分なく使えるらしく、心配していたこちらが馬鹿馬鹿しくなるくらい早い復帰だった。本当に一時的だった。
 けれど体中を占めていた魔物に似た魔力については解決していない。本人に聞いても術そのものに何が起こっていたのか、そこは詳しく分からないようだった。魔物も相変わらず口を割らないようなのでいまいち前進しない。
 解決したようで解決していないことに少々モヤっとする。一時的じゃなくてずっとあのままだったらどうするつもりだったのかと、怒りにも似た気持ちになる。ああいう自己犠牲は好きじゃない。
 でも自分だったら、そうしたかもしれないとも思うと、怒る気にもなれないのだ。
 怒る資格が自分にあるとは思わないが、彼の母親、ノルウェラ様の立場だったら「命大切にしなさいよ!!」くらい言いたくもなるだろう。

「ナナリー、今日の分お願いね」
「はい」

 受付の列が途切れて一段落していると、ゾゾさんに大きな麻袋を渡される。
 この中には破魔士が集めてくれた魔石がゴロゴロ入っている。この集まった魔石を鑑定師の元へ持っていくのが、私へ新たに与えられた仕事のうちの一つだった。
 私以外にこれを届ける人はおらず、鑑定師の場所は他言無用となっている。
 もし誰かにばらしたら即刻クビだと所長から脅されているので、間違っても口を滑らせられない。

「それ届けたら騎士団のほうへ行って大丈夫だからね。魔石調査の協力なんて、私ならやってられないわよ〜」

 やれやれと言った表情で手をぶらぶらさせるゾゾさんに笑う。
 五日に一度の取り調べに、もとい調査協力に今日は向かわなくてはならない。

 私は重い麻袋を浮かせて裏庭へと向かった。
 仕事に影響があるようなら遠慮したいところだが、半日上がりで休日との調整もしてくれているので、今のところ無理はない。

「あー! 先輩、明日飲みに行きません?」
「本当? 行く行く!」

 裏庭の長椅子で休憩していたチーナが、麻袋を抱える私に気づいて声をかけてくれる。
 ぴょこん、と彼女の少し癖のある可愛らしい前髪が跳ねる。
 チーナは後ろに手を組んでもじもじしていた。

「草食狼の目の前に新しくお店が出来たんですよ〜。試しに行ってみたいなって」
「それは……女将さんに怒られないといいなぁ」
「他のお店に浮気したでしょー!」
「ふはは、似てる」

 ころころと変わる彼女の表情に癒されて、そっと自分の胸に手を添える。
 年下のこういう無邪気なところを見ていると、日々の疲れが浄化されていくのを感じた。
 ただでさえ最近は騎士団で生意気な顔と睨み合いながら取り調べされているので、このくらいの癒しがないとゾゾさんが言うようにやってられない。

「じゃあ行ってくるね」
「はーい、気をつけてくださいね!」

 ララを召喚して背にまたがる。
 七色外套の魔法をかけて姿を消し、空へと舞い上がった。

 上空の冷たい空気に、もうすぐ季節の変わり目がくることを感じた。

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