つけてもらった

遠くで見つめている母達から生暖かい視線を受けつつ、目の前のキラキラしたお目目をしている彼を私はドン引きの顔でただ見ていた。
ありきたりな答えは(何故か)彼の謎の燃えポイント刺激したらしく。先程より幾分か饒舌に石の話を語り始めた。


「でね!このエメラルドは…」

「ハイ…はい」

「こっちはルビーが結晶化したもので……」

「うぃっす」

「これは何とサファイアの原石!!ね、ね!この美しさは…!」

「ワー、スゴーイ」


こいつぁひどい。と言われてもおかしくないほど塩対応の私に坦々と語り続けるツワブキダイゴ。
きっと私の目は死んだコイキングの用な目をしているだろう。もしくは「なに言ってんだコイツ…(´・ω・`)」という哀れみの顔か…まあそんな表情に丸出しにしても語ってきやがるんですけどねぇハハ。おいそこで優雅(爆)なお茶会してる親共止めろよ。いや止めてください。


「それでね…!…………君は…僕の話を止めないんだね」

「……ん?」

彼のポケットに突っ込まれていた(彼曰く)宝物達をそりぁ楽しそうにそして高らかに語っていたツワブキダイゴの顔が突如曇る。え?迷惑そうなの漸く気づいたんですか?と言いかけるのを引っ込めて、適当に取り繕う。


「…えっと、楽しそうに話されてましたし……止めるのは悪いかなぁ…と」

そんな私の苦笑いに彼は先程とは売って変わって次に説明しようとしていただろう水色の淡い石を片手に黙ってしまった。


「……僕の話を、目を反らさずに聞いてくれた女の子は君で二人目だ」


「ふたり、め」


無意識におうむ返しした私の言葉など拾わずに彼は更に語る語る。


「いつも僕は自分の世界に夢中になってしまうんだ。石が好きだ、その輝きもそれを構成している分子も全て大好きなんだ。けどそれは人からすれば「おかしい」ことみたいで君のように「こんやくしゃ」とお話ししてもみんなすぐに何処かへ言ってしまう。「つまらない」「他の話をしてよ」って誰も僕の話を聞いてくれなかった」


ああだから初対面から馴れ馴れしいのか。
こんやくしゃと会うことに慣れてしまってる、けどその先は続かない。と言った所か?まあ石の話だけする男なんてお嬢様は普通興味ないよなぁ。……私も興味はないんだけど話を止めなかったのが彼にとっては予想外だったのだろう。


「私、こう見えて聞き上手なんで」


何となく彼の真っ直ぐな視線と顔を会わせられず、話を反らすように顔にかかる水色の見慣れない色をした髪を耳にかける。
そう、夢の中ですらひたすら"誰か"を焦がれる"あの人"の話を聞いていた僕。

ああ…いや、…今は 私 だったね。




「うん…そっか。ありがとうミズキちゃん」

「…………はい」



一瞬また夢の中に入りかけていた頭が「ミズキ」そう呼ばれて目が覚めた。


「ミズキ」
【ミズキ】
《ミズキ》
何度呼ばれようと何度書いても何度"これ"を名乗っても
やっぱり、この名前は私のものじゃない気がした。


「…むずかしい顔をしてるよ?どうしたの?やっぱり僕の話は嫌だったかい?」


「…ああはい。…あ!!えと、嫌じゃなくて、その……」


自分で言うのもアレだが心ここに非ずの状態だったので猫かぶりを忘れて適当な返事をしていまい隣の彼は「やっぱり…僕の話なんて」と再び落ち込み始めた。こいつめんどくさいな……
ここで変に誤魔化すのは気が引けて正直に口を開いた。


「なまえが、変なんです」


「え…僕の名前…?た、たしかに名字があるのは珍しいけど変だったのか……僕の、なまえ…」

「ち、違います!!違いますって!えーとその!!私の、!わたひの名前ですよ!」


落ち込んでいくツワブキダイゴに優雅なお茶会(爆ぜろ)をしていたはずの母の視線がいたい。あまりの視線に自身の防御下がりそうで噛み噛みにあわてて取り繕うと、ツワブキダイゴは「え」と一言発して首を傾げた。




           ・・・・
「その……変、というか違和感があるんだ。何か、自分の名前じゃないみたいで……」




猫かぶりでも何でもなくこれは本当だ。
この名前で呼ばれるくらいならワニノコとかポケモンの名前で呼ばれたい位に

…ん?なんで今私は「ワニノコ」とポケモンの名前を名指ししたんだろう…?




「違和感か……あ!なら、僕がつけてあげる」

「へ、え?」






「アクア」

言われた意味が理解できずに固まっていた私にそっと何かを手の上に乗せてくる。それは先程まで彼が握っていた石だった。


「アクア」

ツワブキダイゴはもう一度呟いた。

「この石みたいに綺麗な髪の色をした君にピッタリだと思う。この石と、その名前を君にあげよう」

「アクア…?」


「そう、君の名前」


この名前ならきっと違和感なんて、ないよ。変でもないしね。
幼い顔をへにゃ、と崩した笑みで私に微笑んだ"こんやくしゃ"は「お話を聞いてくれてありがとう」と照れたように笑いながら広げていた石を片付け始めた。


「石から思い付いた名前って…」

「え?嫌かい?僕はピッタリだと思うけどなぁ…」





「………別に嫌だとは言ってません…」

…こんな変人だが
こんやくしゃ、それもいいのかも知れない。
そう心の奥底でふしぎな感情が芽生えた日だった。







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