そのまま忘れていて欲しかった
白夜の暗殺者は武器に毒を仕込んでいたのか、二の腕に負ったはずの傷は彼を蝕んでいる。
彼の吐く血は止まらない。止まらない!!なんで!!
「ジョーカーさんッ!!!!ああダメです!!ここで死ぬなんてダメですよ!!!」
「泡に、なるとは……こういう気持ちだったんですかね……っ」
ああ……貴女がご無事で何よりです。
そう言って笑う彼に、ズキン、ズキンズキンズキン!!ズキン!!!!頭が警報を立てて痛くなる。
この、光景を見たことある
なんで?
どこで?
いつ?
「泡となって消えてしまうからそこで見ていて」「お姉ちゃん!!」
「カムイ!! 」
私の、声を聞きつけたのかカミラ姉さんとエリーゼさんが私たちを見つけて小さな悲鳴を上げた。
「 ジョーカーさんを助けてください!!お願いします!!!!私は彼から奪ってばかりなんです……ッッ!!ジョーカーさん!なんで、同じ道を辿るんですか!!?馬鹿なんですか!!?」
「いえ、カムイ様に出すお茶であればいかなる時も最高の状態でお出ししなければ……それにこうしてカムイ様の為に茶器を選ぶのも私はとても楽しんですよ」
「……カムイ様,貴女は…私の主人です。…そして私は執事です。……その感情は持っては,いけません」
「…すみません,カムイ様,私は……俺は……」
「カムイ様、」私じゃない「私」の記憶が流れ込んでくる。
そうだ。
この光景は彼の瞳の中で見たことがあるんだ
彼の紫の瞳に写っていた。
血を吹き出して倒れる私、
泣き叫ぶジョーカーさん。
「っなんで!!なんで!!!!」
思い出してしまったんですね、そう笑うかれの血は止まらない。エリーゼさんが杖で治療をしてくれるが余程強力な毒だったのか、彼女は顔色を悪くする一方だった。
なんで笑うのだ。私は、彼を捨てたのだ。自分で欲しがって欲しがってそれでも手に入らなくて目の前で可能性を絶ったのだ。
「今度こそ……!!私なんか、忘れて幸せになればいいのに!!!!ッ人魚姫の王子のように、何も知らずに幸せに生きれば、いいのにっ!!!!なんでですかぁッ!!」
「カムイ!!?落ち着きなさい!!カムイ!!」
カミラ姉さんが、ジョーカーさんを揺さぶる私を無理やり押え込む、が私の叫びは止まらなかった。なんで、やり直したのに
勝手に私は一人で幸せになったのに
なんで貴方は幸せなってないの
なんで前みたいに私なんかをほって置かないの
なんで、なんで、なんで!!!!
「わた、しが……貴女を忘れるなんて……それこそ無理な、話です、」
「ずっと、後悔してま、した……あの時のこと……」
彼は、そう言って「前」の私が好きだった笑顔で笑うと、動かなくなった。
「あぁあぁぁぁぁあ……ッッッッ!!!!」
「カムイ!!?何をしているの!!?止めなさい!」
「姉さん!!?」
「カムイ!!」
きょうだい、の声がする。でも、それが前後不覚に陥りどこからするかわからない。ああ、ダメ嗚呼ダメですあああ嗚呼アアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!
「カムイ!!!!」
最後に聞こえたのは、この世界で私が一番愛した人の声でした。
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