「半分」は愛しい愛しい「子」
愚息が異界から出た。ディーア経っての希望で彼は軍へ入隊したのだ。
そして最近そんなディーアはカムイ様が二人でいる所をよく見かける。最初は愚息がカムイ様に無礼を働いていないか心配だったが、カムイ様は笑うようになったのだ。…俺にはもう向けてくれないあの笑顔で,ディーアに微笑むのだ。
それを見た俺はもう何も言えず,ディーアも,カムイ様にも何も言わなかった。
そんなある日,あの面倒臭いが口癖と言っても過言ではないディーアが目に見えて上機嫌に珈琲を作っていたので,思わず口を挟んでしまった。
「おい,浮かれた顔してんじゃねーよ。さっさと手を動かせ」
「やっているだろ…。…俺そんなに分かりやすいか? 」
「まあな。……カムイ様と何かあったのか?」
「…流石父さんだな。カムイ様がらみってすぐ分かるんだな」
「当たり前だ。何年あのお方といたと思っている」
するとコーヒーを注ぐ手を止めて、ディーアは俺を見てにやり、と笑った。
「俺がカムイ様を守るって言ったら,カムイ様も俺を守るってさ…。…あの人本当にお人好しだよね」
そこに惹かれるんだけど。
そう照れたように笑うディーアに気合を入れる為背中を叩くとわかりやすく顔を歪ませる。
「おいテメェ…カムイ様に手ぇ出してみろ地獄を見せるぞ」
「ソレ…実の息子に言う言葉かよ…」
叩かれた背中を擦りながらディーアはじゃあ俺はカムイ様の所にこれ持っていくわ、と入れたばかりのコーヒーをもって調理場を出ていった。
……そんな言葉、俺は言われた事ない。
、いや、俺がそんな事思う資格は……ないか
🌸
もう何年も前に暗夜王国との戦争は白夜王国の勝利で終わった。筈だった。だが無方に放たれたノスフェラトゥが動きを止める訳では無い。その日はそんな残党狩りをする為に白夜王国の軍を率いるカムイ様は臣下とご兄弟を連れて進軍していた。
「ノスフェラトゥの数は凡そ100、カムイ様どうか油断なさらぬように……」
「大丈夫です。ジョーカーさんは心配性ですね」
カムイ様は夜刀神を構えるとノスフェラトゥの群れの中へ突っ込んでいく。あの方は誰かを傷つくのを恐れる余りに自らを犠牲にするように進軍では前線を維持することが多い。
俺も慌ててその後を追おうとするがノスフェラトゥに阻まれてどんどん距離が離れていった。
「っディーア!!カムイ様を頼む!」
「ったく前に出るなってあれほど言ったのに……!」
ディーアのクラスはロッドナイト、機動に優れている為カムイ様を追うように頼むと俺の声に気づいたディーアは慌てて馬を走らせた。
カムイ様とディーアが防陣を組んだのを確認すると近くにいたフェリシアと共にノスフェラトゥを駆逐していく。
「っカムイ様まではまだか!」
「数が多すぎて中中進めません〜!!」
タクミ王子やヒノカ王女の援軍も来るがやはり数が多い。戦場の真ん中辺りでカムイ様は夜刀神でノスフェラトゥを切り裂いているが数に押されているのか戦況はあまりいいとは言えなかった。
そして漸く、カムイ様とディーアの姿が目前に来た時、二人の視覚から一匹のノスフェラトゥが奇襲を仕掛けて来るのが見えた。
あの距離は,間に合わない。
暗器を投げて支援をするが、あんな肉の塊にそれは致命傷を与えられるはずが無くて
ノスフェラトゥはカムイ様の支援で無防備だったディーアの背中へその拳を振り下ろしていた
「ディーア!!後ろだ!」
「くっ……!!カムイ様!下がって……」
「……ええ。邪魔ですね」
俺の声は、遅かった。
ディーアはノスフェラトゥの攻撃をその体で受けて馬から落ちた。
そして、
そして
「え…?」
今,彼女は,気づいていた。
敵の,ノスフェラトゥの攻撃が馬から落ちたディーアに向かっていることを。
だが,彼女は,何故か
ただ見ていた。
俺の様に届かない訳ではない。確実にディーアを庇える位置に居たのにも関わらず。
主人が従者庇うなど「普通」ならあり得ない。だが自分が知っている主人とは超が着くほどお人好しで,その「普通」の常識なんて当てはまらない人だったから,
ただ頭の何処か片隅で「カムイ様がディーアを庇うのは当たり前」だと,思っていたのだ。
だが現実はただ無情でディーアと背中あわせの様に防陣を組んでいたカムイ様は倒れるディーアをただ,見つめていた。倒れた後も、ただ見下ろして、ノスフェラトゥの攻撃を喰らうまで、喰らったあともただ見ていたのだ。
動揺しているわけでもなく、なにも"感じてないよう"にただ、
「ッディーア…!!!」
グシャッ、肉が潰れる嫌な音がやけに耳にこびり付いて聞こえた。
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