破裂した想いを受け止めて
あとから聞いた話だがリョウマ王子もタクミ王子も、同じ主に使えるスズカゼもあの能天気なヒナタも、カムイ様に一度求婚している、と知った。
王族たちは竜の血の更なる繁栄のため兄妹間でも結婚すると何かの書物でも見たため、リョウマ王子とタクミ王子の求婚の件も眉を潜めはしたが、納得した。
だがカムイ様は、誰ひとりとて見向きもしなかったそうだ。
なぜカムイ様のような素晴らしいお方が未だ、お相手が見つからないか謎に思っていたが全てを断り、無かったことにしている、と酔ったヒナタが語っていた。今まで通りの関係で、上辺だけの付き合い。
俺はその話すら、聞かなかったことにした。
主が特定の相手を作らないのは、彼女に見合う相手がいないから
主がたまに泣きそうに、笑うのは暗夜のご兄弟を亡くされたばかりだから
俺はそう、言い聞かせてカムイ様のマイルームへの扉をノックした。
控えめな音を立てたノック音に室内からカムイ様の「どうぞ、」という淡白な声が返ってきた。
「……失礼します。お茶をお持ちしました」
「ジョーカーさん」
「はい、なんで」
しょうか?無理やり笑顔を作ってカムイ様の声がした方へ振り返る前に、俺は腕を思いっきり引っ張られて、茶器をばらまかせてカムイ様のベットに倒れ込んだ。
「は、……」
「一応、竜の血が流れているのでこの程度は簡単なんです」
そう言ってカムイ様は俺の服に手をかけようとしていて、彼女が、主が何を望んでいるのか察してしまった。
俺は慌てて押し倒してきた彼女の細い腕を掴む。
「お止めください!カムイ様!」
「拒絶しないでッ!!」
私を,見てください。
そう、ポロポロと涙を流す主人に吐き気がした。
いや,カムイ様にではなくここまで追い込んで,気づかないフリをし続けた自分に対してだ。
「好きです…好きなんです…貴方が…
私の言葉を嘘にしないでください…,…受け止めてください…」
スカーフを止めているブローチに手をかける彼女の手を握っていた力が弱まる。
「カムイ ,様」
「これは,命令です。私を,見てください」
ポロポロあふれでる涙を拭うことすら出来ず,抵抗を止めた俺の,カムイ様は哀しげに苦笑すると再び俺の執事服に手をかけた。
「好きです,…好きなんです」
拙い手で,口で,恐らく初めてであろう口づけを繰り返す彼女は,王女等ではなく,ただの女だった。
頭に,妻の顔と,まだ幼かった息子の顔が過る。
いいのか?本当にこの気持ちを受け入れて,
彼女に誓った愛は嘘だったのか?
抵抗もろくに出来ないまま彼女から落ちてくる雫が頬を伝った。
その時、冷静な声が脳に響いた。
「あなたはいらない子なの」俺の両親はお互いの不仲のあまり、別で意中の相手を作って俺を捨てた。その、あの、気持ちを、俺の息子に、ディーアに味合わせるというのか?
そんなの、いいわけないだろう
「…すみません,カムイ様,私は……俺は……」
「……っもう、いいです」
わたし、を見てくれないのなら、いいです。
カムイ様は無理やり俺を追い出すと「お茶、もういりません」と小さな声で言ってマイルームの扉を閉じた。
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