体「は」元気です
朝、目が覚めたがここまで胸糞悪い目覚めは久しぶりだった。そう、気まずいという気持ちと反して朝はやって来たのだ。
起きたくない,顔を会わせづらいと言う体を起こし,ため息吐いて執事服へと袖を通して身を整え、今日もカムイ様の為の1日が始まった。
「カムイ様、体調は如何でしょうか?」
控えめにノックを叩くと「はーい」と思っていたより元気な声が聞こえてきた。
紅茶や朝食が入ったカートを押し、そのまま部屋に入るとあれだけ酒を飲んだのにも関わらずけろりとしたカムイ様が今日も可憐に微笑んでいた。
「昨日のお酒で体調を崩されていると思い、本日の朝食は軽いものにしましたが…良かった。お元気そうですね」
「はい!体調は全然、元気です」
そう言って微笑むカムイ様はあまりにも,普通だったから、
きっと昨日の事は忘れたんだ。と自分の中で完結させた。
「何かありましたらいつでも申し付け下さいね」
「もう、心配性なんですから」
カムイ様が食べ終わった食器を片付けた後、1度自分の部屋に戻るとチェストに置いた小ぶりの箱が目に入る。
万屋で彼女に似合うだろう、と買ったものだ。
…………もし,まだ主人に「そんな感情」が幽かにでも残っているのなら俺に女でも出来たら諦めてくれるのだろうか。
そんな考えが浮かんだがすぐに首を横に降った。
…それは,彼女を利用することになってしまう。俺は別に「そういう為 」だけで彼女を好きになった訳ではないのだ。
その箱の中にはあの日見た指輪が入っている。俺は箱を執事服の胸元のポケットにいれると,考えを振り払うように気を取り直して作業に戻った。
🌸
それはあの慌ただしい宴会から数日経ったある日、
白夜軍は暗夜王国へ攻め入った。
カムイ様はマークス様の一騎打ちと、言って城の部屋に閉じ込められた。
助太刀しようとリョウマ王子らと共に歩を速めていると俺達の援軍を邪魔してくる暗夜軍がそこに待ち構えていた。
「どけっ!!カムイ様!今向かいます!」
カムイ様の元に向かわせないようと群れる雑魚たちを振り払うと、一人、佇まいが違う男が俺達の行く手を阻んだ。
「この先は通すわけにはいかないよ」
「テメェは確か……マークス王子の部下か」
「そうだよ。初めまして、ジョーカー。悪いけどこの先には行かせられない」
男は名乗らずにそのままその剣を構える。見た所クラスはマーシナリーと言った所か。俺も暗器を取り出すとその「先」に待つ主のために武器を構えた。
「っ、はあっ!!」
「くっ……!! 」
男の気迫は大したものだった。純粋に「守りたい」という意思と謎の執念を感じる太刀筋にリョウマ王子ですら若干押されている。
「ごめんね。マークス様を守らないと行けないのもあるけど僕は……ここを生きて、帰らないと行けないんだ」
「はっ……御託はいいんだよ!単純にテメェを倒さないと進めないって事だろ!」
白夜軍の勢いに暗夜は圧されている。現に周りの兵士を倒し終わったらしいタクミ王子が俺のフォローへと回った。
「お前のフォローなんて死んでも嫌だけど姉さんのためだ!さっさとあいつ片付けるよ!!」
「いわれなくてっ……も!!」
流石に多勢に無勢になった為か、男は明らかに疲れを見せている。卑怯と分かっていたがその隙を狙って暗器で急所を狙うと今度こそ、その剣を落とした。
「カムイ様はお優しいからな……殺しはしない、と言いたい所だがお前の意思は消えねえようだな」
「っ、当然!」
構え直す男の太刀筋をリョウマ王子が受けると、俺が動きの鈍ってる男の腹に向かって暗器を指し貫く。
思ったより、深くえぐれる感覚が暗器を通じて感じた。
ゴバッ、と口から血を流して男は倒れる。致命傷だ。……ここで生かしていたら、今後進軍するに能って彼の腕は脅威になる。若干の罪悪感があったがこれも全て主のため、と言い聞かせて暗器に付いた血を拭った。
「ぁ…ッ……ご ……め、ん……ルフ………」
「……悪く思うなよ。……?」
暗器の血を拭い終わると今しがた、倒し終わった男が落ち着いた銀色の髪から濃い桃色に段々と色が変わっていった。まるで何かの呪いでも解けたようにそれは鮮やかに変化を遂げた。
……それは気になる所だが今はそんな事よりもカムイ様を援護せねば。
俺と近くにいたタクミ王子は一騎打ちの場となっている扉を蹴破ってカムイ様の援護へ駆けつけた。
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