この気持ちを否定しないで


買い出しから数日がたったある日の夜,
暗夜王国との交戦で勝利をもたらした我が軍は勝利祝いと称して,軍の一部で小規模の宴を開いていた。

「ジョーカー!飲んでるかー!」

「酒くせぇ!!近寄んな馬鹿!」

肩を組んできたのは先日買い出しを担当したヒナタだった。
奴は絡み酒なのかいつも以上にテンションが高く鬱陶しく肩をバシバシと叩くその手を払うがしつこく食いついてきた

「んだよー!万屋で女物の指輪買ってたろ?なっ、?なっ?ちょっと俺に相手教えてみ?」

「てめっ見てたのか!!」

「ジョーカーが女に贈り物を考える性格じゃねぇーのは分かってるからなぁ!!んで!!誰への贈り物なんだ!!?」

「しつこい!」

あまりにも鬱陶しい為無理やり振り払うと、ふ、と近くの席に座っていたカムイ様と目が合う。しまった。はしたない所を見られてしまった、と思って慌てて取り繕おうとするとカムイ様が小さな声で何かを言って、グイッとむりやりお酒を飲んでしまった。


「カムイ様!!?ああっそんなに飲まれては明日に響きますよ!」

「ジョーカーしゃんには関係ないです!」

関係ない、その言葉にズキンっと心が痛むがそれよりも今はカムイ様の体調が大事だ。

白夜の酒は暗夜と比べるとくせが強く、その上アルコール度数も高いものが多い。カムイ様が飲んだものもその類だろう。慌ててその杯を取り上げるが時すでに遅し。私を見つめているカムイ様の視線はぽやっと惚けた表情だった。

「にゃにするんですか!!ジョーカーしゃん!!」

「カムイ様…酔っぱらってらっしゃいますね?」

「ふにぅあ…酔ってなんか…にゃいですよー…!」

「いいえ完全に酔っていらっしゃいますね!」


こうなってはここに置いておくわけには行かないだろう。
リョウマ王子に一言入れると「よろしく頼む」と頭を下げられてしまった為、そのままカムイ様をマイルームまで送りすることになった。…………難なく任されたと言うことは俺のことを信用してくれているのだろう。
もちろん"執事として"。

カムイ様の負担を考えて姫抱きを使用とすると嫌です!!いやでしゅーー!!と呂律の回ってない拒絶をされた為背負う形でカムイ様をお運びした。

背中越しに伝わる体温に柄にもなくドキドキする。
マイルームまでの距離が、遠く感じた。

ようやくカムイ様も静かになり、眠ってしまったのかと表情を覗くとカムイ様がポツリ、と小さな声を絞り出した。

「ジョーカーさん…」

「はい,なんでしょうか?」

「好きです」

うわ言の様に呟く主人に少し笑みが溢れる。そして,その言葉は執事として,一人の人間としてとても嬉しい言葉だった。

「はい,私も好きですよ」


「ちがいます!そうじゃないんです!」






「お前のことを信用してるぞ、ジョーカー」

リョウマ王子の言葉が枷となってズキリ、と心が警告を鳴らす。


これ以上は、聞いてはいけない。





「ジョーカーさん…わた…私は貴方の事が……」


「カムイ様ッッ!!」

びく,と背中越しにカムイ様が震えた。

「……怒鳴ってしまい申し訳ありません。…ですがカムイ様,貴女は…私の主人です。…そして私は執事です。……その感情は持っては,いけません」

背中で震える主人を,まるで子供を宥める様にそう言うと嗚咽が聞こえてきた。

「…カムイ様,貴女は酔ってます。だから,その感情は気のせいです。忘れましょう。」






そう、俺は間違ったことは何一つ言っていない。
元貴族とはいえ俺のような人間より彼女に相応しい方は、他にいる。

彼女はきっと、共に生活していた事で恋心を勘違いしているだけなのだ。
そう心にいい聞かせてマイルームまでの道のりを重たい足を引きずりながら歩を進めた。





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