Helianthus Annuus | ナノ
海門へ [ 73/156 ]

アイゼンが一人向かった洞窟の入口に着くがトカゲの業魔とマギルゥは動こうとしない。あのふたりは同行する気はないようだ。

「マギルゥ、たちは……?」

「無念じゃが儂には航海も戦いも手伝えん。見守ることしかしたくないんじゃ……」

「でしょうね」

ベルベットがそのまま切り捨てると彼女は真っ先に洞窟へ入ってしまった。ダイル、と呼ばれたトカゲの降魔も「俺も戦えねぇからパス」と手をひらひらと降っている。
どうやら着いて来てくれるのはベルベット、ロクロウ、それと聖隷の男の子だけのようだ。

私もベンウィック達に手を振ると「頼むからケガだけは気をつけろよー!!」と返事が帰ってきた。止める気は無くなったらしい。

洞窟に入るとヒンヤリとした空気が広がる。蔦が生い茂っており、中中に足場は悪い。
業魔も見かけられる事から急いだ方がいいか、と駆け出すとロクロウが上から降ってきた蜘蛛型の業魔を斬り捨てて私の隣に並んだ。

「アイゼン、だっけか?随分信用されているんだな。あいつは聖隷だろ?」

「……そんなの関係ないよ……」

それに私だって人じゃないし……
それは口を噤んで私も戦いに参加する。慣れない事なのでせいぜい水を出して敵を弱める程度だが聖隷の男の子と共にベルベットとロクロウのサポートに努めた。

「あんた達なら海峡を避けて航海できるんじゃないの?」
「……難しいと思う……何度も「海門」に向かってたけど開けられたことはないって言ってたし……あと羅針盤が壊れたってベンウィックが言ってた…」

「…………そう言えばアンタ、あいつらとどうやって合流したわけ?」

「えっと……」

どう言ったものか、協力すると言ってたし私の事を話すべきか?悩んでいると見覚えのある後ろ姿が見えてきた。どうやら業魔を倒し終わったらしいアイゼンがそこに居た。

「……海賊を信じる気になったのか?」

アイゼンがゆっくり振り返る。すると私を見て「……なんでお前までいる」と睨まれた。

「……自分の"意思"できたの」

「帰れ。足で纏いと言っただろう」

「む…………」


アイゼンは自分勝手が過ぎる。意地でも着いてってやるって言おうとしたらベルベットが私の言葉を遮る。

「……痴話喧嘩なら後でやって。海門を抜けたあと王都まで船と船員を貸してくれるならこっちも力を貸すわ」

それと、リアは勝手に着いてきたから私達は知らないわ。とさり気なく?フォローしてくれた。多分勝手に死んでも知らない、って意味もあるだろうけどそれに賛同してうんうん、と頷くとアイゼンが溜息を吐いた。

「……いいだろう。……が、こっちも一つ言っておくことがある」

アイゼンはコートのポケットを漁ってコインを取り出した。ソレは裏がダオス、表がマーテルのアイゼンが「器」にしているって言っていたコインだ。彼がコインをトスする。回転したコインはアイゼンの手のひらに戻ってくるが相変わらず出てきた面は裏の魔王ダオスだった。

「……俺は周囲に不幸をもたらす死神の呪いにかかっている。千回振っても裏しか出ないほどの悪運だ。要塞を抜けようとした時も五人犠牲が出た……同行すれば何が起こるかわからんぞ」

「……なんでそんな不利な情報を教えるの」

「業魔も理不尽には死にたくないだろう」


アイゼンがベルベットに向かってコインを投げる。受け取ったベルベットは顔を顰めている。
確かに、アイゼンの呪いは凄まじいものだ。一緒に後悔してて色んなことがあった。でもアイフリード曰く、「リアが来てからだいぶマシにになった」と言っていた。ベルベット達を呪いに巻き込むのを危惧しているのだろうか?……いや彼はそんなに優しくないか

「知った上で来るのなら自己責任という事だ」

「どうでもいいわ。裏なら自力で表にひっくり返すだけよ」

そう吐き捨ててベルベットはアイゼンにコインを投げ返す。「器」は大事にしろってアイゼン自身が言ってたのにそんなポイポイ投げてもいいのだろうか……?

アイゼンはベルベットから受け取ったコインを見る。
するとニヤリ、と笑った。どうやらベルベット達を認めたようだ。


「名は?」

「ベルベット。"これ"が二号」

「これ……?」

ベルベットの後ろにいた男の子をベルベットは目だけで名指す。「ニゴウ」?変わった名前だなぁと眺めているとロクロウも名乗り出す。ので続いてアイゼンも口を開いた。



「アイゼンだ。それとこっちが……」

「エリアスだよ」

さすがにもう本名でもいいだろう、とアイゼンに続いて名乗る。するとロクロウがリアは偽名だったのか?と尋ねてきた

「知らない人に名前教えるなってアイゼンがいってたから……」

「保護者かよ……」

「……こいつはうちの船員だ。だがそこまで戦力は期待するな」

「……じゃあ何で着いてきたわけ?」

「……こいつに聞け。俺は知らん」


何だか不機嫌なアイゼンはそう言ってそのまま先に洞窟の奥へ行ってしまった。急いで後を追うが歩のペースは緩める気は無いらしく私は早歩きで彼の後に続く。

……分かっていたけど全然頼りにされていない。それになんか雰囲気がちがう。気がした。……1年という期間でアイゼンがわからなくなった。
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