Helianthus Annuus | ナノ
策戦と詮索 [ 74/156 ]

ザクザクザク……、苔むしった地面を踏む音だけが洞窟内に反響する。先程までは1人だったその音は複数の足音になっていた。

……今こうしている間にもバンエルティア号は海門へ奇襲を仕掛ける準備をしているはずだ。協力する事になった業魔達ベルベット……、とエリアスが合流して洞窟を抜けた先の要塞へ向かいながら今後の作戦について話し始める。

「要塞を攻略する策があるんでしょ。聞かせて」

「……結論からいえばヴォーティガンの守りは鉄壁だ。海からも陸からも落とせた試しがない」

「おいおい、……まるで何度も挑んだ様な言い草だな」

「……実際そうだ」

エリアスが捕まってると聞いてからは船員達も一致団結して何度か攻め入った……が、あの海門の守りの前にまるで歯が立たなかった。横目でエリアスを見るが目をそらされる。


……当の本人は実際監獄島に捕まっていた為知るはずもないだろう。


大分洞窟も奥まで進んで来た。無言のエリアスと"二号"以外で作戦の話を進める。

「なら同時に攻めれば……?」

「…そうだ。まずバンエルティア号で攻撃をかけ、警備艦隊を海峡から引きずり出す。その隙に俺達は要塞を抜け、開門を開く」

察しがいいベルベットが導き出した答えに続けて詳細を話す。これは海と陸。両方のタイミングが大事だ。
こちら側もしくじる訳にはいかない。
襲いかかる業魔を振り切って洞窟への出口へと速歩で急ぐ。

「バンエルティア号は艦隊を振り切って海峡に再突入。その際に俺たちを拾って駆け抜ける」

「ひとつ間違えれば全滅だな」

「……けど間違えなければ勝ち目はある」


「策戦はもう始まっている」そう告げると、あんた達も早く行くわよ。と後ろから着いてきていたエリアスと二号に声をかけたベルベットは我先にと進んでいった。

「……策戦は聞いてきたな?」

「……うん、よく分かんないけど門、あければいい……」

「……今はその認識でいい。行くぞ要塞の入口は洞窟を抜けた先だ」

やたらと"二号"を気にするエリアスを急かすと、ベルベットが出口付近で立ち尽くしていた。目の前には絡み合う蔦。なるほど、……これは簡単には通れそうにない。

「すごい蔦……絡みあってちぎれない…、邪魔ね」

「携帯用の着火剤がある。これで燃やせ」

「火……?こんな所で……いいの?」

後から追いついたエリアスが不安そうに(あまり表情は変わってないが)こちらを見る。
確かに"普通"はこんな所で火を使うわけにはいかない。

「……普通は平気じゃないな。だが、俺達は業魔と聖隷だ」

「ああ……普通じゃなかったわね。……ていうかエリアスもやっぱり聖隷だったの?なんか他の聖隷とは術、みたいなものが違う気がしてたわ」

「…えっと…………」

「…"今は"…そういう事にしておけ。いずれわかる」

「……別にいいわよ。足で纏いにならなければ何だって」

どいて、火を使うわ。着火剤を受け取ったベルベットが蔦に火をつけると不安げに俺の後ろに隠れた。……未だに火は苦手らしい。大丈夫か?と尋ねるとハッ、とした表情をしたかと思えばすぐに離れていく。……一年見ない間に随分と忙しない奴になったな……。

「……平気……、行こ…」

「…遅れるなよ」

もうそろそろ出口は近いだろう。エリアスは歩きなれてない、ということもあってか足はそんなに速くない。それにわざとらしく俺を避けるように歩く為どうしても最後尾に続く。ベルベットやロクロウ達のペースには合わせられそうにないがだからと言って道案内を買って出た俺が最後尾に行く訳にも行かない。殿を任せるには些か頼りないが背後には気を付けろ、そう言って先頭に勝手でると早速業魔たちがうようよと寄ってきた。


「チッ……懲りねぇ奴らだ」

「この辺りの業魔は斬りがいがねぇなぁ……」

ロクロウが蠍型の業魔を斬り捨てて溜息を吐く。ベルベットは軟体系の業魔を喰らい、二号とエリアスがそれをサポートして順調に敵を倒し歩みを進めるがロクロウがふ、とベルベットに声をかける。


「……少年、随分おとなしいな……具合でも悪いんじゃないのか?」
「元々こうよ。二号は」
「やめろよ。二号なんて可哀想だろ」

等と後ろが何かと騒がしい。エリアスもエリアスで二号が気になるのか先程から目配せをしている。……自分も似たような存在だから気になるのだろうか?遅れは取るわけには行かないので背後を気にする程度に留めて先に進んでいると「あんたの名前の意味は?」「兄弟の六番目でだからロクロウだが」「それと同じよ」「同じじゃないだろ」……とどうでもいい内容ばかり耳に入った。

今話すべきはそこじゃないだろと流石に注意をしようとすると二号の後ろから穢れの気配を感じた。業魔であるベルベットとロクロウは気づいていない。

「あ…………!!」
「そこか!……ウィンドランス!」
「水……放て、ツインフロウ」

「ひ…………ッ!!」

同じく二号の近くにいたエリアスが水を、俺が風の聖隷術を放った事によって業魔は消滅したが悲鳴を堪えた二号が声を出さない様に口元を押さえて震えていた。……恐らくそういう"命令"をされているんだろう。

「大丈夫……?」

「大丈夫か少年!?」

「なんで声を上げないの!気づくのが遅ければ死んでいたわよ!」


すると、予想していた通り意志のない瞳で「命令だから……口を聞くなって……」と目を伏せて二号は話した。……一年前のエリアスの様な、感情と意志が感じないその姿に聖寮への胸糞悪さが湧いてくる。

そんな二号の様子を見てベルベットが感情を剥き出しにして二号の肩を揺さぶった。

「あれは違う!!あんたは……何でそんな……!!」

「落ち着け、ベルベット!」

「……お前対魔師に使役されていたのか?」

こくり、無言で頷く二号。俺の予想は当たっていた。

「こいつは"意志"を封じられている。本来聖隷は人間と同じ心を持つ存在だ。……だが対魔師は強制的にそれを封じ込めている……道具として使うためにな」

「……ずっとこのままなの?」

「わからん……対魔師の配下から脱した"聖隷"は初めて見た」


二号は俯く。意思の灯ってない瞳はどこか虚ろげだった。ベルベットはそれ以上は何も言わず、一度舌打ちをして先に進んでいった。ロクロウは「困ったことがあったらなんでも言っていいんだぞ、」と二号に声をかけているが二号は首を傾げるだけだった。




「意思……封じられる……」

「……お前に付けられていた術式も対魔師のソレだった」

「……そうなの?……覚えて……」

「ない、だろ?……どっちにしても聖寮がお前の力を何らかの理由で狙っていた、という事実には変わりない。……もう少し気をつけて行動しろ」

あの時の血だらけのエリアスの姿が過ぎる。コイツを「どうしようと」したかは知らんが体の一部を切り落とすほどだ。……聖寮に捕えられ五体満足で帰ってきたのは本当に奇跡だと思っている。

「気を……つける、……つけていたよ……」

「……一年前連れ去られた件もそうだが、迂闊すぎるんだお前は」

「……あれは……ちがう。私だって抵抗、した」

「後の祭りだろう」


…………いや、半分は俺の呪いのせいだと分かっている。これがただの八つ当たりという事も。元々はこいつが運がいいのを、過信しすぎた俺のせいだ。

だがエリアスは、一言「……ごめんなさい」と呟いて俺から顔を反らして黙りこくってしまった。



……感情があったらあったで色々と儘ならないものだ。


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