協力者 [ 72/156 ]
ロクロウの読めない斬撃を軽々と流してベルベットの業魔手も怯むことなく聖隷術で受け、聖隷の男の子の紙葉もものともせずにアイゼンは拳を振り下ろしていく。
未だに戦いはよく分かってないけど彼が強い、というのはよく分かった。でも私に背を向けて戦う疎外感がなんだが……えっと、そう。解せない。
他の団員たちも加勢する気はないようだが「アイゼン1人で」闘っているのが、胸が苦しい……気がした。未だに感情というものはよく思い出せない。
「剣に双刀に紙葉……ペンデュラム使いはいないようだな」
実力を見る、と言っていたので彼らの力量が分かったのか、アイゼンが満足したのか。はたまた両方か、アイゼンはあれだけ激しかった攻撃の手を緩めて皆を改めて見定めていた。
「ペンデュラム……?」
「そっかリアはいなかったか……船長がいなくなった時現場に残ってたんだよ」
1年ぶり、という事もあったし色々話す前にベルベット達との戦闘になってしまったのでベンウィックが小声で教えてくれた。納得してうなづいているとアイゼンが「合格だ、力を貸せ」と中々上から目線の物言いでベルベット達に吐き捨てる。
「は?ずいぶん勝手な言い草ね」
「こちらも戦力が足りない。協力しろ」
また話がついていけない。なんの事?と隣にいるベンウィックに訊ねるとヘラヴィーサという街を壊滅された業魔がいてそれがベルベット達らしく、戦力として戦ってもらうために力量をはかっていたようだ。
「知ってて試したのか」
「チッ……ついでに助けてもいる。あのまま進めばヴォーティガンの海門に潰されていた」
(今舌打ちした……)
ロクロウにだけあたりが強い気がするが気のせいだろうか?そしてあっ、と声を漏らす。海門。先日までいたあの「壁」の事だろうか?私の疑問を答えるようにベンウィックが前に出る。
「あんたらミッドガンド領に向かってるんだろ?それには、ここ先の海峡を通らなきゃならない。けどそこは王国の要塞が封鎖してるんだ。文字通り巨大な門でね」
「それがあの「壁」……」
「ああ、武装は協力かつ堅固でそのあまりの念の淹れようにありったけの皮肉を込めて俺達海賊は"見晴らし台"って呼んでるんだ」
ベンウィックはベルベット達に説明をしているが私も色々と把握出来た。あの壁……いや海門を超えた先にアイフリードがいるかもしれない、……だから彼らは攻撃していたのか。
「……ふぅん……」
「俺達も海門を抜けたいが戦力が足りない。協力しろ」
「ええああそう、と言うと思うの?海賊の言うことを真に受けるほど馬鹿じゃない」
アイゼンも頼む態度じゃないがベルベットも強気に返す。これはまた一緒に行動できそうに無いかもなぁ遠くを見つめているとと高みの見物をしていた女の子……マギルゥって名前だったか。彼女と目が合ったがすぐに反らされた。……まあ一緒のタイミングで脱走したのにこんな所で再開したらわたしも怪しい……存在……なのかな?
ベルベットの返答にアイゼンはあっさり「いいだろう。命を捨てるのも自由だ」と嫌味をこめて私達に背を向けて崖の方角へ向かう。
「なんじゃ?断っても良いのか?」
「お前達はお前達で。俺達は俺達でやる。それだけのことだ」
「副長!!ひとりで行く気ですか?!やっぱり俺達も一緒に……」
アイゼンが向かう先には岩山が連なっている。その上には小さな洞窟が見え、彼は振り返らずに「足で纏いだ」とだけ告げ迷うことなくその洞窟へ入っていく。
「あそこは……?」
「陸からの開門要塞の抜け道だ。囮で内部を混乱させて俺達は海で攻めるって話だったんだけど……副長1人じゃあ……」
「……アイゼン、が危ない」
追いかけなきゃ、アイゼンが向かった洞窟に急いでかけようとするとベンウィックに腕を掴まれた。
「なに……」
「また目を離してリアに何かあったらオレ達も気が気じゃねぇんだよ!!それこそ副長の足でまといになりたいのか!?」
「ちがう……、ちがう……!」
足で纏い、とかそういうのは「もう」嫌なんだ。危ないから待て?勝手に動くな?それはもう一年前に沢山聞いた。
ベルベット達を見てて思った。自分の意思、で動かないと。後悔はするなってアイフリードといっていた。だから私はアイゼンを"自分の意思"で追うのだ。
ベンウィックの腕を振り払うと今度は傍観者だったマギルゥ、が私の邪魔をした。
「どいて……」
「まあまあリアと言ったか?ちょいと待つのじゃ。のぅベルベット、これからどうするつもりじゃ?」
「…………、何か言いたいようね?」
マギルゥの試すような口調にベルベットは彼女を睨む。どうやら説得して?くれてるようだ。
「あー、……どのみち俺たちは船をまともに動かすこともままらないしアイツに付いていく他ないんじゃないか?」
「……それもそうね。利害は一致してる……。リアだっけ?一応言っておくけどあの海賊を助けるためじゃないからね」
ロクロウのフォローもあってベルベットは洞窟の方へ歩みを進めた。どうやら一緒に戦ってくれるようだ。
彼女は自分の身は自分で守りなさい、と吐き捨てて岩山を登る為に蔦に手をかけた。
「所でアイゼンってリアの仲間なんだろ?何であいつあんなに不機嫌なんだ?」
「…………知らない」
ベルベットに続いて蔦に手をかけるとロクロウが「俺にだけバシバシ来た気がする」とやはり気のせいではなかったようだ。
エリアスはロクロウに貰った赤い紐を揺らしながらアイゼンの後を追った。
「……にしてもリアのやつがあんな切羽詰まった声出すなんてなぁ」
「1年の間にリアちゃんの感情が戻ったんじゃないのか?」
「……いやあれは"副長"のことだから、だろうなぁ」
くそー!!俺もリアちゃん狙ってたのに……
嘆く団員たちに副長がいたら殴られるぞ、とベンウィックは苦笑した。