遠ざかる心 [ 70/156 ]
酷く損傷した手に治癒術をかけているとポツポツ、とエリアスが断片的に話し始めた。
結論から言うと、エリアスは開門要塞ではなく、もう一つの予想の監獄島に捕まっていたらしい。
「はーー……でもよく出られたな?あそこ脱獄できたやつなんて今までいないんだろ?」
「海域、は荒れているけど、私は泳げるし……」
ここまで酷いと完全には治らない。
他は軽傷が殆どだった為何故ここまで手の損傷がひどいのも聞かなきゃならないな、と着ていたコートをエリアスの肩に被せた。
「……牢屋ではどうしていたんだ」
「えっといい業魔に助けられた……?」
「業魔に言いも悪いもあるのかよ」
ベンウィックの言う通りだ。ここまでひどい怪我をしていいもクソもなかった。とりあえずボロボロになったスカートをどうにかしなければ(視線に困る)とエリアスの部屋としてあてがった場所から船員がスペアの服を持ってこさせる。
「でもロクロウはいい業魔だったよ……」
「……その業魔に服をやられたのか?」
「……ううん。自分で破ったの、その、おーきゅーちりょうで」
「……包帯がわりにしたのか」
……どこまで自己犠牲が過ぎる奴なんだ。呆れてため息も出ない。とりあえず着替えてこい、とエリアスを部屋に戻すとベンウィックが「よくあいつ無事でしたね」と苦笑をしていた。全くもってその通りだった。
🌻
着替え終わったエリアスは船員たちに囲まれて各々再開を喜んでいた。泣いているやつもいたが死んだと思っていた、迎えに行っていたはずのエリアスがいきなり船に戻ってきたのだから感情が昂っているのだろう。
あとは、アイツだ。アイフリードを探さなければならない。
「……エリアスは戻ったが進路は変えん。王都に1度情報収集に向かう為に海門を越える。その為にまずヘラヴィーサを襲った馬鹿共をさがせ」
「ヘラヴィーサ……?」
「なんか港を爆破させたとかいうヤツらがいるってよ。海賊に加える戦力にはもってこいだろ?」
"あの"開門要塞へ奇襲へいくのだ。そういった馬鹿の方が利用価値がある。ヘラヴィーサからこの辺りの海域はそう遠くはない。きっとまだ彷徨いているはずだ。
「いやぁでもほんとリアが無事でよかったッスね」
最近の副長ずっとぴりぴりしてましたし……ベンウィックの小声が耳に入るが実際最近は気を張り詰めていたので聞かなかった事にして再開を喜ぶ奴らに持ち場に戻るように声をあげる。
「おいお前ら!!持ち場にもどれ!まだエリアスは無事だったんだ、アイフリードもさっさと回収するぞ!」
『アイアイサー!』
「……?アイフリー、ドいないの?」
そう言えば姿が見えない、ね。キョロキョロと辺りを見渡すがいつも心水を片手に喜楽な船長が見当たらない。
「……お前と同じ日……一年前の決闘の日からアイツもいなくなってる」
「いち、ねん…………?」
いちねん、ってどれ位……?
悲しげに目を伏せたエリアスに「いずれ分かる」と頭を撫でた。歳を取らないエリアスにとっては、一瞬のような出来事だった。でも違う。人にとってはとても長い時だ。
そしてエリアスの髪に触れていると見慣れない色に気づいた。エリアスの髪を纏めているのは赤い紐だ。
エリアスの寒色の髪色にやたら浮いているその赤はまるで存在を主張するように見えて思わず手を伸ばすとサッと紐を手で塞がれる。
「これ、は……監獄島でロクロウに貰ったの……」
「……お前にはその色は似合わん」
「…………そんなことない、よ。これであやとりも出来るし結びやすい長さだもん」
「あやとり……?それと長さは関係ないだろ。お前には「…………今のアイゼン嫌いだから…いや……」
嫌いだからいや。嫌いだから、イヤ。
嫌い、だから、イヤ
きら
「おいヘラヴィーサ爆破したってやつあの船じゃねぇか!?」
「どうしますか副ちょ……ダメだ副長が使い物にならねぇ!!」
「とりあえず大砲で追い込んどけ!!」