正体と視線 [ 81/156 ]
大当たりぃ〜〜!!!!
そんなマギルゥの声とアイゼンの私の名前を呼ぶ声が海の上から聞こえてきた。
高い所から落ちたし、若干背中が痛い。でも海であれば私達の利点を思う存分発揮できる。
止まることなく進むバンエルティア号の船底を追って人間の足から変化した尾鰭を動かして進んでいく。
バンエルティア号が止まらないのは私の無事を知っているから。彼らは、私の事をずっとずっと探してくれていた。ずっと生きてるって信じてくれた。
だから私も彼らを信じて止まることのない船を追って、海門の抜けるまでそのスピードを落とすことなく泳ぎすすんだ。
そう言えば、アイゼン大丈夫かな?
船の上から声がした、って事はアイゼンは無事に着地出来たんだ……
「良かった……」
人魚は、幸運の存在だとアイゼンが言っていた。かつて私が教えたらしい。
なら私がアイゼンの不運を吹き飛ばしたのかな、?そう思うと私が落ちてよかった、なんて少しだけ、頬が緩んだ気がした。
🌻
「おい!!リアが落ちたままだぞ!!止まらなくていいのか!!?」
「止まりてぇのは山々なんだけど海門の攻撃が再開する前に突っ切んなきゃ行けねぇんだよ!!」
「エリアス……!」
ロクロウが舵を取るベンウィックに掴みかかろうとするのを抑えこむ。後から降りてきたベルベットは過ぎていく海門をただ眺めて何も言わなかった。
「アイゼン!!お前は薄情か!!リアはお前の恋人だろう!」
「まだ恋人じゃない!いいから落ち着け!」
「副長、ちゃっかり「まだ」って言わないでください」
ドゴォン……!!
遠ざかっていく海門から船尾に向かって放たれる大砲をベンウィックが舵を切り躱していく。船員達もエリアスの事を気にはかけているが皆考えている事は"同じ"だ。
「野郎ども!エリアスが戻れるようにとっとと海門から遠ざかれ!こうも大砲が打たれ続けていたらあいつも近寄れねぇ!」
「「おおー!!!!」」
何を馬鹿な事を、ベルベットとロクロウがそんな顔をしている。二号は顔を伏せ、マギルゥは何かを考え込むかのように黙っていた。
やがて、大砲の発砲も落ち着き、後方に見えるヴォーティガンの海門がどんどん小さくなっていく。
波も段々と落ち着いて来ており、ベンウィックも舵から手を離し、息を切らすベルベット達に「お見事!!」と抜けた前歯が見えるように笑った。
「俺ら……は、な」
「……随分軽薄ね。海賊は」
「……エリアスが……」
……そろそろ、話すべきだろう。ベンウィックもリアなら無事だよ。と甲板から慣れたように梯子を垂らしていく。
「はぁ?あんな距離で落ちたんだぞ?しかも荒々しい波の海に。いくらリアが聖隷でも生きて……」
「……呼んだ?」
「エリアス!!!!?」
「うっそだろぉ!!?」
「なんで!!?」
ベンウィックが垂らした梯子から伝ってと登ってきたエリアスが甲板に顔だけ出し、ひらひらと手を振る。
これ以上はまだ登れない……と目で訴えかけて来たのでエリアスの脇を抱えて尾鰭が傷つかない様にそっと甲板に下ろした。
エリアスの姿に、脚だった、その尾鰭にベルベット達が目を見開く。
「人魚……!すごい……初めて見た!」
「……だからあんたはあの監獄塔からコイツらと合流出来たのね」
「ほおー、これは見事な尾鰭だ!」
まだかわかない尾鰭をゆらゆらと揺らしながら俺の目をじっと見つめて「……ごめんなさい」とエリアスは目を伏せた。
「……謝るのは俺の方だ。怪我はないか?」
「う、ん。背中打ったけど海は慣れてるし、……そんなに痛くない……よ」
「なら、いい。……いいか、お前ら。こいつの事は他言無用だ」
「なんでだ?」
「人魚の肉は不老不死になれるという伝承があるからのー」
俺の言葉を遮ってくるくると回る、自称魔女を睨む。
「おー怖」そう言って軽々しく視線を逸らし、逃げていく。
「てめえ……知ってたのか」
「ちょこっと知っていただけじゃよ〜!わしはどっちかと言うと海魚よりヘルスィーな川魚派じゃから安心せい」
「人魚って美味いのか?」
「手を出してみろ。剣士の業魔が先に食卓に並ぶと思え」
冗談だって、苦笑いしてロクロウが一歩下がると完全に脚が乾いたらしいエリアスが人の脚で立ち上がる。「乾くと人になれるんだ!」と二号は先程からすごい、すごいとエリアスの周りで興奮している。ベルベットは人魚なんかに興味がないとはっきり告げた。
「かくさ、なくていい?」
「こいつらにはな。当分は行動を共にするだろうし無理に隠そうとしなくていい。だが十分に警戒はしておけ」
特にあの自称魔女のマギルゥ。人魚の血肉が不老不死になれるという言い伝えはそこまで広く伝わっていないはずだが本心が見えない女は俺たちを試すようにニヤニヤと笑って俺たちに背を向けるように海を眺めだした。
「マギルゥは、悪い子……じゃないと思うけど……」
「……いや、どう見ても怪しさ全開だろ……」
「……まったく、奇妙な縁もあるのぅ……」
その、魔女の呟きは誰にも拾われることは無かった。