Helianthus Annuus | ナノ
飛び降り注意 [ 80/156 ]

開門装置へと続く鍵を手にいれ、一先ず開門突破の準備を進めているバンエルティア号の脅威となる戦艦を破壊する為に船着場へと向かう。

破壊方法は火薬をたくさん積んでいる船へ火を放つだけだ。開門装置を探すより手っ取り早く済ませられる。
襲い来る業魔達を退けながら先程の兵に聞き出した情報を頼りに階段を降っていくと待ち構えていたのた一人の対魔士だった。


「一等対魔士……!」

「いっとうたいまし……」


ベルベットの言葉をオウム返しの様に繰り返したエリアスは監獄塔で聞いた事がある、と呟く。一等対魔士は聖寮の連中の中でも霊応力が高く、複数聖隷を使役出来る奴らのことを指す。
後一歩、船着場はすぐそこに見えている。バンエルティアは海門からの攻撃を必死に耐えている為時間はそうかけれない。


「船着場はその先だな……通してもらう!」

「貴様達は侵入者か……?いや、どうでもいいか……業魔に関わるものは全て斬り伏せる……我が"ランゲツ"流の剣でな!」


好戦的な声を挙げた対魔士を前にロクロウが一歩前へ出る。そして刀を構えながら「退け」と俺を睨む。



「お前こそ下がれ。こいつは俺がやる」

「いいや……コレは俺の獲物だ!時間が無い!お前達は戦艦を潰せ!」

「チッ……行くぞ!何が目的か知らねぇが好きにさせておけ。俺達は俺達がやるべき事をする」

「火薬……どーーん」

「まったく緊張感ないわね……!」



完全に頭に血が登っているらしいロクロウが対魔士に斬りかかっているうちに通路を抜け、戦艦へと向かうとほかの場所同様戦艦の乗組員も業魔化していた。
ここ一帯に酷い穢れが蔓延しているが海賊、という立場上この程度であれば慣れていたが二号やエリアスは穢にまだ馴染みがない。急ぐぞ、とベルベットを急かすと襲いかかる業魔を斬り捨ててながら船の火薬庫へ速歩で歩を進め爆破の小細工を仕掛ける。



「……これだけの火薬があれば充分だな。行くぞ!この爆発をバンエルティア号への狼煙にする!」

「火は……怖い……」

「はァっ!!……っと、業魔も大分減ったわ。ロクロウを回収して海門を開けるわよ!」


船にいる見張りの業魔達を全て倒したベルベットの後ろを穢れに若干酔っている二号がフラフラと危なげなく追う。……そう言えばエリアスは先程から割と平気そうだ。一年前、海賊船に乗っていた時も一年間監獄塔という穢れの巣窟に居たが比較的ケロリとしている(ように見える)
人魚は穢れにくいのか……?本人に聞いた所で「分からない」と返ってくるのが落ちなので今は何も言わずに目的の為に二号の腕を引きながら走った。





先程通ってきた通路へ戻るとロクロウが「応!」と気前のいい返事をして笑っていた。どうやらカタはついたらしいが……爽やかな笑顔の割に周りは血まみれになっている。

「俺の目的も聖寮になったぞ!恩返しも出来るし、丁度いいな!」

「……あんたがやったの?」


アレ。ニコニコと笑うロクロウに対してベルベットが顎で対魔士だった"ソレ"を指す。ロクロウは「ん?まずかったか?」と頬に滴る血を振り払った。

後から通路へ入ってきた二号が無惨に死んでいる対魔士を見て小さく悲鳴を飲み込んだ。同じく俺の後ろにいたエリアスは淡々とソレを見つめているように見えたが俺のコートの裾を少し摘んでいる。
一度舌打ちをしてエリアスの視界にソレを写さないように一歩前に出る。


「……死神の連れには丁度いい」

「ん?リアどうかしたか?」

「っ…………」


返り血……穢れを帯びた刀を滴らせてああ、コレか。すまんすまん、と心にもない謝罪をするロクロウは「斬り合うのを、命のやりとりがここまで楽しいと思えるとは……業魔は"いいな"」と薄ら笑いをしていた。そんな"剣士の業魔"からエリアスを少し距離を離した。



🌻





「海門を……開門するぞ!」

ロクロウのくだらない駄洒落は聞かなかった事にして1つ、2つと開門装置のレバーを下ろし、完全に門は開いた。
開いた海門から侵入してくるバンエルティア号に乗り込み、そのまま反対側の海門の外へと脱出する手筈になっていたがやはりそう簡単には事は運ばなかった。

先程、俺が拷問した兵士が穢れを纏いながらこちらへ突撃してきたのだ。兵士だった男は完全に業魔に堕ちている。この要塞に相当な執着を持っている兵士が業魔になった為、穢れの量も多く、その分デカい業魔へと変貌を遂げた。


デカい的を相手にするのは簡単だが場所の部が悪い。今俺達がいる場所は海門の最上階だった為足場も広くなく、一歩間違えれば数百メートルしたの海の藻屑になってしまうだろう。

海が遠すぎる為、聖隷術がまともに使えないエリアスを下がらせて武器を構え、襲い来る業魔を迎撃する。足場の悪さからあまり派手な技は使えないのもあって敵は硬くやりにくい相手だったが意志が戻っている二号のサポートもあり厄介な業魔を撃破する事ができた。


が思ったより幾分時間がかかり過ぎた。




「予定よりも手こずった。船着場まで行ってる時間はない。バンエルティア号は海門を突っ切ってこの真下にやってくる。そこで飛び移るぞ」

「アイゼン、ならバンエルティア号に何か合図を」

「それは多分……大丈夫……」

「必要ない。元々想定していた策だ。これがアイフリード海賊団の流儀さ」

「アイフリード、好きそー……」


エリアスの返答にニヤリ、と笑う。予想通り、合図もなしにバンエルティア号は真っ直ぐにこちらへ向かってくる。飛び降りる準備をしろ、と言うと業魔であるロクロウでも流石にこの高さでは及び腰になっているようだった。


「この高さを飛び降りて、無事で済むか?」

「死神に保証してほしいのか?」


それは遠慮しておく。そう言ってロクロウは覚悟を決めたようだ。

ベルベットは問題ないだろう。恐らく、二号もベルベットが気にかけている為共に飛び降りる。問題は高い所が苦手だというエリアスだ。俺が支えるように同時に飛び降りたとしてエリアスが無事に着地できるという保証はない。……いやむしろ俺が無事じゃない確率の方が高いか?反れて海に落ちる事はあるだろうがエリアスが着地出来れば上出来だろう。


「高…………い」

「……いくらお前といえ、この高さから海に落ちたら危険だ。一緒に飛ぶぞ」


だからといって業魔のベルベットに頼むわけにも行かない。
二号は体格的にもエリアスを抱えることは無理だろう。ロクロウは論外だ。一度溜息を吐いて「離れるなよ」とエリアスに念を押して同時に飛び降りた。





渓谷になっている谷間は、風が常に吹いているが、体が持っていかれるほどの突風は吹いていなかった。だが俺達が飛び降りたその時、偶然、そんな突風が吹いた。

死神の呪いの偶然。そんな偶然はもちろん悪意のある結果になる。
風の突風に煽られ、俺と離れてゆくエリアス身体へ手を伸ばしたがその手は空を掴み、エリアスはそのまま海へと落ちていく。


「あ、」

「エリアス!!!!」






ザパ……ァン!!!!


水飛沫を散らせながらエリアスが落ちた場所から波紋が広がっていくのを"偶然"着陸できた船から見つめるしか出来なかった。

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