何気ない日常の一部分

 どこをどう勘違いしたらそこまで堂々と迷えるのか純粋に疑問に思えるほど神戸の方向音痴ぶりはすさまじい。技術がいくら発達しようとも神戸が道に迷わなくなることはないと断言できるだろう。どこかに出かけるときは携帯の予備の電池と地図と余分な交通費を持たせるものの、「子どもちゃうねんから」と神戸は口をとがらせて拗ねる上に結局喧嘩になるので疲れる。もう放っておけば、と考えることもあった。少しは不便な思いをした方が自分の方向音痴ぶりを自覚するかもしれない。でも、神戸が道に迷って心細い思いをしている姿を想像すると、なんだか放っておくのも良心が痛むし、いろいろと小言を言いつつも自分は神戸を甘やかしている。しかし神戸はそう思っていないようで、今日も例外ではなく、「そんなに心配やったら自分がついてくればええやん」とのたまってきた。

「なんでそこまで面倒見にゃあいけんのじゃ」
「だってうちのことが心配でしゃあないんやろ?」
「全然」
「はあ!? じゃあうちの荷物にまでいちいち口出しせんとってよ」
「せんかったらせんかったで文句言うじゃろ」
「言わんし」

 嘘つけと思いつつ、もう適当に流すことにした。携帯の電源を入れると山口からの新着メールの通知が目に入る。どうでもいい用事で山口がメールを打つとは思えないし、何かしら緊急の用事と考えるのが自然だろう。即座にロックを解除して山口からのメールを開こうとすると、神戸が横から携帯を取り上げた。

「何するんじゃ」
「うちが話してるんやからちゃんと聞いて」

 どうせ大したことでもないくせに、とつい言ってしまいそうになる。言わなくなっただけ、自分も成長したということか。いや、単に何を言ったところで神戸が態度を改めることはないだろうと諦めただけ。喧嘩になる度に毎度お決まりのパターンを繰り返す自分たちの単純さには我が事ながらうんざりする。ちょっとは相手に譲るとか、そういう考えはないのか。自分の答えとしては、もちろん否。神戸の答えは聞かなくてもわかる。言い争ったら後悔するだろうに、黙ってはいられない。今日も例外なく。




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