エンドロールが巻き戻る

 キスに優しさを求めたことなんてなかった私でさえ眉をひそめるほどに無遠慮で乱暴だと断言できる口づけだった。本能に正直なのかそうでないのか。どちらにせよ、今こうして二人でいるのが私と広島が望んだ結果ではないのは確かだった。何も考えていないわけじゃなかったけれど、多少自棄になっていたのは否定しない。でも誰でも良かったわけでもない。彼だから――私にとってどうしようもなく邪魔な男だから。ジャケットもヒールも脱いでいないのは単なる気まぐれ。しないよりはした方が空白が埋まる気がしたからキスをしているのと同じ理屈。彼の唇が首筋や鎖骨に触れることだって一緒。どうでもいい、それに尽きる。彼に聞いたら同じことを言うだろう。どうでもいいからどうでもいいことをしたってどうでもいい。誰に責められることもない。自分さえ責めない。責めるとしたら自分じゃない。こんな意味のないことをする原因を作った男。私と彼の感情を知ろうともしない冷たい男。嫌いになれたらいいと何度思ったことか。私をちっとも愛していないくせに平気でキスをする男を好きになるのとどっちがマシだろうかと考えて、どっちも選びたくないと思った私が我儘と非難されるとしたら、そんな世界は間違っている。

「…泣いとるんか」
「そんなわけないやん」
「ほうか」

 どうでもいいどうでもいいどうでもいいどうでもいいどうでもいい。頭の中をその声と文字で埋め尽くしてしまえば私はまだ私のままでいられる。意味がないと定義したこの時間を、罪悪感など感じずに過ごすことができる。結局捨てきれていない弱さを認めたくないのだとわかっている。広島も、きっとそうで。誰も救ってなどくれないのがわかりきっている中で堕ちて行きながら、互いを縛って、傷つけて、お互い「彼」と結ばれる未来などありえないことを見せつけて嘲笑って、それでもまだ足りないのは、罰、なのかもしれない。




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