愛欲インテルメッツォ

 愛した女の話は、今となっては思い出したくない類のことになってしまった。当時はそれほど深く考えなかったし、ただ目の前にある未来が幸せにつながっているのだと疑わなかった子供だった自分に非がないと言えば嘘になるだろう――互いに。抱きしめれば折れてしまいそうなほどに小さくてか弱いあいつの体に触れることも、何気なくからかうことも、今はもうできない。俺と見た目では大して変わらないほどに成長した彼女は、昔のことなど忘れたかのように――昔の自分を捨てたかのように、綺麗に笑っている。それが気に食わないと思うほど未練はない。口にしたところで何がどうなるわけでもないのだから、嫌味の一つや二つは黙っておくに越したことはない。そういった俺の考えを見越したかのように、その夜神戸はこう言った。

「自分に嘘ついてどうするん?」

 なるほどそれも正論ではあるが、不思議と彼女に言われると正しいことでも正しいと認めたくなくなる。俺が自分に嘘をつき続けて昔のことを忘れようとしていようが俺の勝手であり、それを神戸に咎められる云われはない。
 俺の頬をなでる手は外の寒さをそのまま持ち込んだように冷たく、香水の独特な匂いが鼻をついた。神戸の瞳の中にあるのは昔にこだわる俺に対する嫌悪と渇望といったところか。形は変われど、現在の自分を肯定してほしいと思っているのは昔と同じ。ただ、それを上っ面だけの欲に書き換えようとするところは、昔よりも救いようがない。




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