act 5

前を向いてしまえば、雪に隠してしまえないから。
そんな理由を自分なりにつけては神楽は空を見上げた。
かじかんだ指先も、鼻のてっぺんも、頬に伝わるこの涙も、全部雪の所為。
だから思う存分泣いても構わない。瞳から零れる涙は、雪と混じって頬に伝う。冷たい雪と、体内から出て来た涙は空中に放り出されて、地に模様を作った。

ズズッと鼻をすすった神楽の右ポケット。振動する携帯。
「もしもし……うん? ごめん、駄目だったアル……。ん? 泣いてなんかないヨ。アハハ、そんな事したら死んじゃうネ。うん大丈夫」

電話の相手は星海坊主。

結果を聞いた父親は、とりあえず向こう側の男を絞め殺しちゃおうかと冗談をいって神楽を笑わせた。
見合い相手があんな男だと、見抜けなかったのは星海坊主の落ち度。
けれど、世の中には、人を欺くのだけは上手い輩も星の数ほどいて、娘の事を心配するがために性急に事を進めた父親が騙されたのは仕方なかった。

宇宙最強だと何だと言われるが、所詮彼もまた、人の親なのだから。

「ね……パピー? 私も……宇宙に行こうかなぁ……なんて。あ……違う違う。そんなんじゃないヨ。もう、パピー喜びすぎアル。え? 理由? 別に……。ただ、ここで生ぬるい水に浸かってる間に、私も随分弱くなったなぁなんて思ったアル。え? またお見合い? パピー、もうお見合いなんて――――」

出来ないヨ――――。
言おうとした神楽の言葉は、沖田の手によって、携帯ごととりあげられた。

「星海坊主さん。あんたがそんなにコイツをいらねーってんなら、俺が貰いやす」
ポカンの口を開けっ放しにしている神楽の目の前で、沖田は信じられないような台詞を吐き、ブチっと通話を切ってしまった。
見上げるのは、沖田の顔。

「何……何言ってるアル! パピー今頃っ、絶対激怒してるアル! お前自分で何言ったか分かってるアルか?! お芝居はもう終りアルっ!」
神楽は思わず立ち上がって、声を張っていた。
そのすぐ後、自分が泣いていた事に気付き、雪と交わった涙を拭った。
沖田が悪いかなんて、今の神楽には考えられなかった。神楽はお妙に今回の事を話し、それをお妙は近藤経由で沖田に言っただけ。確かにおせっかいだと言えばそうだけれど、お妙の宣言どうり、ちゃんとお見合いは破綻し、神楽自身も守ってくれた。
なのに、頭で分かっていても、心は痛くて、痛くてたまらなかった。

完璧に化粧を施された神楽の頬は、一度頬を拭ったくらいでは、何も変わらない。

沖田はそんな神楽を黙って見つめている。
その視線に、神楽はすぐ堪えられなくなった。
歩きなれていない草履でその場を離れようとした。
しかし今度は、沖田はそれを許さなかった。

「本気でィ」
「何がアルかっ?!」
「さっき、宣言した通りでさァ」
神楽はそのまま沖田に向けて、着物の柄とおそろいになっている小さなバックを振った。それを沖田は左手で簡単に防いだ。

「ふざけんな! 馬鹿にするものいい加減にするアルっ!」
神楽の中で感情が爆発した。
助けてくれたと思ったら、それはお芝居だと言う沖田。
なのに、今度は実の父親である星海坊主に向って、事もあろうに自分を貰うと言う。
言葉の意味を知った上でのイタズラや、からかいならば、残酷だとしかいえなかった。

神楽の声は震えに震えた。
怒り、そして悲しみにまみれた。

「別にふざけちゃいねー」
もう一度神楽はバックを振った。今度は沖田は何も抵抗しなかった。
沖田の顔に当たったバックは鈍い音を発した。
「ふざけてるアル! お芝居だって言ったり、お芝居じゃないって言ったり!」
「俺は本気でェ。じゃなきゃあんな恐ぇー親父さんになんぞ言うかよ」

ふざけてるとしか思えない。
なのに、沖田の顔は真面目だった。
「おまっ! もう……意味が分からないアルっ……何で……っ」
堪らず神楽は両手で顔を覆ってしまった。




・・・・To Be Continued・・・・・



 



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