act 2

一体何が大丈夫なのか、未だ神楽は分からないでいる。
目の前には、いつもならよだれが出てきてしまいそうな懐石料理。自分を改めてみてみれば、着た事も見た事もない様な着物。

14歳の頃から伸ばし続けた柔らかい桃色の髪は、うなじが見えるように上げられ、華やかな簪が飾られてある。
いつも自分でするメイクとは違い、その手のプロによって仕上げられた神楽は、江戸の街そのものが華やかに、そして見惚れる程のものとなっていた。

神楽は刻々と過ぎていくその時計の針を見ながら、ちらりと男の方を見た。
顔は悪くない。しかし正直好かない。自分によほど自信があるのか、その自信が顔の表情にまで出てきてしまっている。
沖田も自分の顔がいい事を分かってはいる様だったが、目の前の男の様にあからさまにしてる風は全くなかった。
ラブレターを貰っているその間でさえ、その態度は見るに堪えない様子が大半だった。
神楽が物思いにふけっていると、ふと目の前の男と視線があったので、慌てて顔をそらした。

見た目は神楽と同じ人間そのものであって、中に流れる血のみが、その種族だと唄っている。

「貴方は……見ればみるほど美しい方で」
「あ……」
男の柔らかい物言いに、神楽は控えめに会釈した。
体格は、沖田より少し大きい。土方くらいだろうか?
年は25歳だと星海坊主から聞きていた。沖田のひとつ上。

体の色は日焼けした様に黒い。
目は二重で、鼻も整ってはいて……けれどやはり沖田にかなう気がしない。同じ家に住んでいる銀時にも、沖田の上司である土方にも、到底劣っている様に神楽の目には映った。

全てを沖田に結びつけている神楽と、その男、陽光(ようこう)は今この一室で二人きりだった。
父親の星海坊主、そして相手方の両親は、集まって20分もしない内に、若いものは若いもの同士でと席を外してしまった。
もう10分程こうして二人は向かい合わせに座っているが、慣れない正座も痛いし、肝心のお妙はと言えば結局あれから音沙汰なし。
まさか、やっぱりどうする事も出来なかったからと自分を避けているのかとも一瞬考えたが、自分の知っているお妙はそんな事をする人間ではないと思いなおした。けれどもしかすれば忘れているのかもしれないと、神楽は不安に駆られた。

「こうしてみると……あの有名な夜兔族とは到底思えませんね」
あぁ、どうしよう。笑った顔さえ嫌悪感が走る。
神楽は苦笑いをしながら、ため息をついた。

これが未来の夫と考えると、もうこんなにも頭が痛い。
この話はなかった事にしよう。お妙は来ない。一応見合いの席も出席した。後は適当に話を合わせつつ席を外し、後日、縁がなかったと断ればいい。そう神楽は開きなおりつつあった。

「結納は……いつにしましょうか?」
「はっ?! ゆ、結納?」
突然の陽光からの考えもしなかった言葉に、神楽は声が裏返った。
結納なんてすれば、断るどころか、それこそ後戻りが出来なくなってしまう。
神楽は一気に動揺した。

「ま、まだお互いの事を全然知らないアルっ。そんないきなり結納――――」
「私は貴方に、運命を感じてしまいました。貴方以外には考えられません」
運命?! 冗談じゃない。
自分が運命と口に出し呼べる相手は、この男なんかじゃない。
ドSで、ぶっきらぼうで、薄情者で、いじわるで、でも強くて、たまに優しくて、格好いい……。

一気に神楽の目が冷めた気がした。

「わ、私っ、帰るアル!」
立ち上がった神楽の体は、慣れない正座で感覚をうしなってしまい、立ち上がると言う動作についていけず、男の胸の中へと飛び込む形となってしまった。

「おやおや、気が早いですね」
男の笑った顔を見た神楽はゾっと背筋が震った。
「ちがっ! ただ足が――――」
「白く柔らかい肌だ……コレが僕のものなるなんて……」
「ちょっ……」

気が付けば、押し倒される形となった自分が居た。
神楽は年相応の恐怖を覚えた。
覆いかぶさる男の顔は、神楽に本性を映し出した。
「やめっ! 止めろっ!」
バタバタと神楽は暴れるが、夜兔族に匹敵する男の力には、到底叶わなかった。

「いやいや、宇宙最強と唄われる夜兔族といえど、やはり女は女ですねぇ」
見下ろす顔に、神楽は危機感を感じずにはいられない。バタバタと体を動かすが、両手は押さえつけられている上、着物を着ている胴体を挟む様にされていては、手も足も出なかった。
呼吸が上昇する。
神楽の着崩れた着物の合間から見える下着に男の視線がいく。陽光の下で神楽はもがくが、涼しい顔でそれを押さえつけていた。

(この男っ――――ヤバいアル!)
手つきが慣れている。
女がどんな風に男を拒むか、どんな風に逃げようとするか、それを先回りした様に陽光は神楽を押さえつけてくる。それは、この男がどんな男かを物語っていた。

「君と僕の子ならば、きっといい血の子が生まれるはずだよ。ねぇ神楽?」

血の気が引いた。
体の至る所から冷や汗がふき出し、触れられるその手から伝わる温度に吐き気がした。
届くその吐息に虫唾が走った。
見つめられるその視線に腐食していきそうだった。

同じ男なのに、こうも違う。神楽は激しく後悔し、暴れ続けた。
「パ、パピーに知れたらっ……お前殺されるヨ!」
「くくっ……言わないよ君は。そうだろう? 神楽?」

恐らく、星海坊主が、神楽との親子の経緯を話してしまったのだろう。
我慢ばかりしてきた神楽は、今更親である星海坊主に、まさか自分が犯られてしまった、なんて事を言わないだろうと分かっていた。
夜兔として、娘として、そんな事、父親であり、宇宙最強を誇る男に対して、言えるはずがないと。
甘えべたな神楽の性格を、この陽光と言う男は、たった少し星海坊主と話をしただけで判断できていた。
それは同時に頭が切れると言うことを表していた。

悲しいくらいに図星をつかれた神楽はますます焦った。
しかしその視線だけは、負けてたまるかとその男をきつく睨んでいる。
そんな神楽の視線を、たまらなそうに陽光は見下ろしている。その視線は、沖田と同じ匂いがした。
けれど、沖田より遥かに嫌悪感が体を舐めまわす。

「いいねぇ、その視線。ゾクゾクしてくるよ。僕はそんな女を服従させるのが大好きでね……。心配しなくても、すぐに良くしてあげるよ」
「ちょっ! ふざけんなっ! ヤメロ! ヤメっ――――」



――――ドスっ――――





・・・・To Be Continued・・・・・



 



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