act 50
本当にもうっ――――――っ!!
そう思いながら、頬をいっぱいにして朝食である、喫茶店のサラダを口にしているのは、勿論神楽である。
朝っぱらから、あんな事をしておいて、しかも未遂に終わってしまって、火照った体をおさめるのに、どれだけ苦労したかと、目の前の沖田に視線で訴えている。
当然、その思いは、同じ様に沖田にもあった。
けれどそんな思いを抑えつつ、二つ目の自身のバターロールを、神楽の皿へと置いた。
「ほら、これも食えよ」
「むぐっ……っ、こんなに食べられないアル」
自分の分二つと、沖田から先ほどもらった一つを喉に流し込んだ神楽は、もういらないと、沖田の皿に、そのパンを返した。
「食えねえじゃねえ、食え。姉さんから聞きやしたぜ、またオメー、ダイエットだ何だって、量を減らしてるらしいじゃねえか、そんなんじゃ、育つ子も育たねえよ」
また姉御ってば、余計な事を……そんな事を考えていると、それはちゃんと顔にでていた様で。
「そんなモンは後でどうにでもなるんでィ、今はちゃんと食え」
日頃の神楽の食欲を目の辺りにしているからこその沖田の台詞だったが、お腹が大きくなったせいで、思う様に動けない。いくら栄養が吸収されるからと言えど、神楽はそう思っていて。
「沖田こそ、ちゃんと食べないと、倒れちゃうアル」
神楽がそういうのも、納得できる部分があった。なにしろ、面白いように、仕事は順調なのだ。そんな忙しい合間をぬって、こうして二人の時間をとってくれている沖田を、心配できないはずもなく。
「ちゃんと、食べて」
心配する神楽の表情を見た沖田は、その気持ちを汲んだように、そのパンに手をつけた。
安心したように、神楽は笑う。
「――――――で、今日はっつーのだな」
うん、沖田の台詞に、神楽は頷く。
自分の部屋に呼んで、あの指輪を神楽の薬指にはめる予定である。
が、しかし、いくらなんでも、こんな朝っぱらからと言うのもなんなので……。
「どこか、行きたいとこはありやすかィ?」
え……? 行きたい所?
思わぬ台詞が沖田から出てきたと、神楽は面食らったようだった。
てっきり、その予定は、彼の中で、組み立てられてる、そう思っていたのだから。
「行きたいとこアルか……」
急に、言われても、どこだろう? 沖田となら、どこだって楽しいから。
側にいれるだけれで、こうして二人で朝食を取っているだけで、幸せなのだから。
そんな事、間違っても、口になんかしてやらないけれど。
「う〜ん」
そうならそうで、もっと早くに聞きたかったアル。
そしたら、自宅で一人いるときも、全然暇なんてしなかったはず。
きっと、驚くくらい胸が高鳴っていたはずだ。沖田に決めてもらうのとは、また違った楽しさがあるのだもの。
映画? だめだめ、きっと私、沖田の横で、眠っちゃうアル……。
それに、暗闇の中なんて、ドキドキするもの。
買い物? って、私そんなにお金持ってないアル。
いつだって沖田がだしてくれてる。それを狙ってるわけじゃないけれど。
だからせめて我侭なんて言っちゃ駄目ヨ。
じゃあ……じゃあ――――。
「分からないアル」
だって、本当に、お前となら何処へでも。
神楽の一言に、沖田はふわりと笑う。
「なんでィ、我侭を聞いてやるって言ってんだ」
なんて俺様な奴。でも、そんな言葉を聞いて、嬉しいと思う自分が居る。
沖田から、こんな台詞を言わせちゃうのは、自分だけなんだから、なんてのろけちゃいそうになっちゃう。
そんな神楽の表情を、沖田が愛しい、そう思ってるなんて、夢にも思わないのだけれど。
「じゃあ―――――沖田の家に……行きたいアル」
・・・・To Be Continued・・・・・
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