act 27

翌日、まだ目覚ましの音がなるその前、神楽の瞳は、ゆっくりと開かれた。
カーテンから見えるその向こう側には、もうお日様が照っていて。
でも、まだ早い時間なのは分かる。

枕元にある携帯で時刻を確認すると、現在早朝、6時40分。

思わず口を開いた。
遅刻魔だと言っても過言ではない自分が、なぜこんな時間に?
ゆっくりと起きて、周りを見てみるけれど、当然、皆、まだ熟睡していて。

そんな神楽が、ふと気づいた。
メールが来てますと、携帯には表示されていて、なんとなく、想像がついてしまった。
でも、本当に? そんな面持ちをしながら、ゆっくりと触れてみると、そこには(沖田)の文字が。

こんな朝っぱらだと言うのに、もうこんなにも自分の心臓がときめいているのが分かる。
メッセージを開けてみると、そこには、【おやすみ】のひとこと。
そのたった一言に、神楽の顔はほころんだ。

(気づかなかったアル)
もっとちゃんと気をつけていればよかった。そしたら沖田にも、ちゃんと返す事ができたのに。
そうは思ったけれど、嬉しい事には変わりなく。

今までならば、こんな風に、メールをやり取りするなんて、考えれなかった。それは、二人の関係が、ちゃんと変わった証拠であって。
神楽は、ゆっくりと、自身の指先をのせる。
おはよう、なんて書いてみたけれど、まだ沖田は起きてるはずもなく。

こんな風に、自分が沖田にメールしようとしている事自体、まだ信じられない。
あの、沖田と、両思いになれたんだと……。

恥ずかしくなって、わっとなる。

(ほんとに、ほんとうに、あいつが、私の事、好きって言ってくれたアルか?)
それだけじゃない。自身の唇に、優しく触れたあの感触、忘れろって言われたって、絶対無理であって。

そうこうしている自分が、間違って送信ボタンを押してしまった事に気づいた。
(わっ、やばいアルっ!)
思ったけれど、時すでに遅し。

画面には、キチンと送信完了の文字が。
(どどどうするアル!)
わわっと携帯を自身の膝の上に、落としてしまう。すると、その上で、携帯がブブっと振動した。

(えっ、な、何アルか?)
信じられない様な面持ちで、その携帯を拾いあげると、そこには受信メッセージの文字が。
まさかっ、神楽は画面に触れると、今、思った通りの名前がそこにはあって。

【俺の事が、恋しくなりやしたかィ?】
カーッと頬が染まったのが分かる。だって、あながち間違ってもいないんだから。
(あいつ、本当にバカアル)
言い訳がましく思ってみたけれど、仕掛けたのは自分の方で。

誰も見てないけれど、恥ずかしくて思わず俯いた。

どうしようか、返信してみようか……、あぁでも何て送ればいい?
ひとさし指が、思わずふるえる。
周りを見渡してみたけれど、やっぱりまだ、皆、熟睡していて、頼れそうな者は、一人もなく。

ドキドキと胸が加速していく。それは止みそうもなく。
恋って、こんなものなのだろうか、それとも私だけ?


(わ〜〜もぅ! どうしたらいいアル)

ボスンと布団に顔をうずめた。
その神楽の手の中から、スルリと携帯が抜けた。
(え……? 何アルか?)
思って顔をあげ、唖然となった。

「なななな何してるアル!」
神楽の目の前には、担任でもあり、親代わりでもある銀八の姿が……。

「ふ〜〜ん、沖田くん、とうとう……ふ〜〜ん」
寝癖まじりの銀髪、パジャマ姿で、なぜこんな時間に? 神楽は、開いた口がふさがらない。
「なななな銀ちゃんっ! 何してるアルかっ?」

神楽の側へと腰を下ろして居た銀八は、ゆっくりと立ち上がり神楽を見下ろした。

「神楽ちゃん、お付き合いするならするで、ちゃんとお父さんに挨拶しにきなさい! じゃないと俺は認めねえよ?」
仁王立ちする銀八のその声に、また子らも、思わず目を覚ます。

「なぁ〜〜〜! 何言ってるアルかっ!」
腰を上げた神楽は、わなわなと口を震わせながら、銀八に講義してみる。
が、銀八にはまったく効果がない様で……。

「分かった、俺が直接、あいつに言ってきてやらァ」
「だ〜〜っ、何かんがえてるアル! そんな事、絶対駄目アル!」
分かりやすく神楽に背を向けた銀八を、神楽はしがみつき阻止する。

完全に面白がっているのが、みえみえだった。お妙達もそれは分かっている様で、しかしこんな事をしておいて、あとで知らないからとばかりに、布団の中にもぐりこむ。

「銀ちゃん! 携帯を返すアルっ!」
「やなこったぁ!」

二人がもみ合いに近いものをしていると、神楽の携帯が、ブブッと振動した。ハッとした神楽は、銀八の手の中から携帯をとりあげろうとする。が、それはひょいと高く持ち上げられ……。

うるさくて、眠れやしない、そんな事を隣でまた子達は思いながら。
メールではなく、着信。まるで、沖田側に、何か見えているかの様に、その携帯は振動していて……。

それをピっと銀八が押した。
「もしもし? 沖田く〜ん」
「なぁ! 早く返すアル!」

無我夢中で神楽は叫ぶが、銀八は面白くて仕方がないとばかりで。しかしその向こう側、やはり、明らかに不機嫌な彼がいて……。

「何してやがんでィ、テメーは」
「ななななんでもないアルっ、これは夢アル!」
わざと沖田へと届くように神楽は言う。
が、その効果は全くなく……。

銀八の瞳は、こんな朝っぱらにも関わらず、キラキラと輝いている。待ちわびていた、そんな表情だった。
どうしてかこう、神楽の周りには、そして自身の周りには、似たりよったりの人間が集まってくるのだろうか?

目まぐるしさに、頭がクラクラとしそうになる。

が、銀八は、沖田にとっても、また特別な人間であって。

ここらへんで、一言、言っておくべきかと考えた。








「――――――娘さんを、俺にくだせえ」




放たれた沖田の言葉に、神楽は、口をポカンと開けていた。
その横で、思わぬ台詞が沖田から漏れたと、同じく銀八も固まっている。


茶化したわけでも、冗談でもなく、真っ直ぐの、本心だ。

「ななっ、ななななななに言ってるアルかっ」
神楽の顔は、真っ赤に染まっていて。布団の中で、瞼を閉じていた、お妙達にまで、その声は漏れていた様だった。

思わず彼女達も、起き上がっては、その行方を見守って。
ゴクリと、喉がなった。

神楽が唖然としているその横で、なにやらフルフルと震えているものに気がついた。
「ぎ、ぎんちゃ――――」

ひっ、と表情をさせるが、時既に遅し、銀八は目を吊り上げていた。
「ゆるっしまっせん!!!」
言いながら、携帯を下に、チョウップッ!! と、手を振り下げた。
「わわわわっ! 駄目アル! 何するネ」
素早く神楽は、自身の携帯を抜きとった。

おかげで、銀八の手は、ズドンとその下に。
悲痛な泣き声と共に、自身の手をかばう銀八に、お妙達は、やれやれだと、そして面白いほど予想通りだと、再び布団に包まったのだった。


_……To Be Continued…
 
拍手♪

作品TOP







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -