act 43

「どうしよう……このままじゃ沖田に嫌われちゃうアル」
タンスの中から出しまくった洋服を自分に重ねては、神楽はためいきばかりついていた。
神楽の視線の先には、もうすぐ6ヶ月となる大きなお腹がでっぷりと存在感を示している。

「何言ってるの。沖田さんの赤ちゃんがお腹の中ですくすくと育っているんだから、大きくなるのは当たり前じゃないの。そんな事でぐちぐちと言う男じゃない事くらい、神楽ちゃんも分かってるでしょ?」
お妙は、テーブルの上にジュースを置きながら言った。
そのお妙の言葉に、また子も、そして一緒にいたミツバも頷いた。

神楽がこんな事をいいだしたもの、あの日帰り旅行の一件からだった。
沖田と、得体も知れない女が風呂場で何があったのか、神楽はどうしても気になっていた。
気になりすぎて、病みそうになっていた。

沖田が浮気をしない事くらい、自分でもちゃんと分かっているつもりだったけれど、
日に日に大きくなっていくお腹を見ていると、どうしても沖田の前で自身を晒すのを躊躇うようになってしまった。

おかげで沖田は近頃禁欲中であった。

そんな雰囲気になりつつも、それを全部神楽が拒んでいたからだった。

無理強いしたくないと沖田も強くは言わなかったけれど、コツコツと不満は溜まっていた。
勿論、沖田は神楽が悩んでいる事などしらない。
赤ん坊の事を考えてとの事だと思っているからこそ、沖田は我慢に我慢を重ねていた。

「だって、何かこの体……格好悪いアル」
「神楽ちゃん!」
ポロリと出てしまった神楽の本音に、ついお妙は声を荒げてしまった。
しゅんとなりつつも神楽は口を尖らし、拗ねた様に俯いた。

「そんな風に神楽ちゃんが気にする様な事、沖田さんが何か言ったんスか?」
また子の言葉に、神楽は首を振った。
「別になにも……ただ、こんな体になっちゃって、沖田が幻滅しないか不安なだけアル」
神楽の言葉を聞いたミツバが、そっと神楽の手に重ねた。
「神楽ちゃん。総ちゃんはね、神楽ちゃんが大好きなのよ。分かる? 神楽ちゃんが好きなの」
いまいち言っている意味が分からないと神楽は首をかしげた。
ミツバはふわりと笑い、よしよしと神楽の頭を撫でた。

「細いから好きとか、そんなじゃないのよ。きっと。神楽ちゃんが好きなんだから」
ミツバはそっと神楽の大きくせり出て来たお腹を撫でた。
「神楽ちゃんと総ちゃんの子がお腹の中に入ってるのよ? 可愛くないわけがないでしょ?」
「そうッスよ! 大体沖田さん、神楽ちゃんに飽きてる事なんて全然ないッス! だからあの時も――――」
言いかけると、まずったとばかりにまた子は自身の口をふさいだ……。



ほんの二、三日前のこと。
事務所の隅の部屋で、近頃忙しい日が続いていた沖田が仮眠を取っていた。
丁度買い物に行っていた神楽が一人事務所へと帰ってくると、皆が出払っている事に気付いた。
部屋には誰もいないのかと覗いてみると、沖田が仮眠している事に気付き、思わず近寄った。

さらさらの茶色の髪の毛。長いまつげ、呼吸する唇。

沖田がシたくなるといけないからと近頃は触れる事も避けていた神楽だったが、急に恋しくなってしまった。

近頃沖田が忙しくなっているのも、神楽との禁欲を断ち切るものだと言う事も知っていた。
神楽だって、そういう事をしたくないわけじゃない。

いつだって沖田に触れてほしかった。
自分だけに優しい指先も、その温度も今も変わらず好きのまま。だからこそ恐かった。
出っ張った腹に、黒っぽくなり大きくなった乳首。
けっして可愛らしいなんて呼べるものじゃない。

気が付くと、神楽は沖田を無言のまま見下ろしていた。

すると下からスっと手が伸びてきたかと思えば、ゆっくりと引かれた。あくまでもゆっくりと。
それは沖田が起きていると言う証拠で、自分の体を労わってくれている証拠でもあった。
沖田は神楽の首に腕をやり、そっと自分の唇に触れさせた。

しばらく触れてなかった沖田の皮膚に、体に電気が走るほど震えた。

沖田は瞳を閉じたまま、神楽にもう一度触れた。
柔らかく、くっつけるかくっつけないかの距離で、何度も、何度も口をつけた。
しばらくすると、割った口から舌をからませてきた。

あっと思った瞬間には、自分が下になり、押し倒される形となっていた。

開かれた沖田の緋色の瞳は、自分を欲しがっているとすぐに分かった。

しかしここは事務所の中。
神楽は声をあげ、止め様とした。しかしその口もすぐに沖田に塞がれてしまった。
荒々しいほどの沖田の口付けは、彼に完全に火をつけた様だった。

嫌なわけじゃない。けれど嫌だった神楽は、相手が沖田であるにもかかわらず、本気で抵抗した。

妊娠してから、全くそういった行為をしてなかったわけじゃない。
気をつけながらも、優しく触れながらも、そうやってお互いの思いを感じていた。
なのにいきなり何故? 安定期だってすぎている。医者に禁止されてるわけでもない。

沖田が納得できるはずもなかった。
少々本気になった沖田は、力づくで神楽を押さえつけていた。
無遠慮に捲られた服の中から、晒された下着。
口をふさがれながらも、神楽は嫌だと言い続けた。それでも沖田はやめようとはしなかった。
むしろ意地になる様に、神楽のスカートの中へと手を入れた。

「沖田!!!」

叫ばれた神楽の声。ハッとした沖田の視線に映ったのは、真っ青になって全身で息をする神楽の姿と、今しがた買い物を終え、休憩しようと部屋に入ってきたまた子と高杉の姿だった。





・・・・To Be Continued・・・・・




 


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