act 42

「ミツバ姉ぇ、よっぽど昨日、楽しかったアルかぁ?」
あの翌朝、事務所で、ホットココアを飲みながら言った神楽の一言に、ミツバは頬をそめ、土方は口に含んだコーヒを吹き出した。

神楽がそう言ったのも無理はなかった。
いつも割と冷静なミツバが、朝事務所に顔を出した時から、もう三度ほど思い出した様に顔を赤らめていたからだった。
土方の車で一緒に出勤した事で、昨晩は泊まったのだろうと、当然神楽達は気付いていたのだが、とりあえず其処は言わないでいたのは、土方が火を吹くのが想定できたからだった。けれど今の神楽の言葉も十分地雷を踏んだ様だった。

土方は、吹き出したコーヒーを側にあったミニタオルで拭っている。
その斜め横でミツバの顔は、わっと染まっていた。

拭いながら土方は、神楽を睨んだ。
が、しかし口から出た言葉を、今更引っ込める訳にもいかず、もう出してしまったのならば何を言っても同じだろうと、神楽はスイッチを入れた。

「だってぇ、ミツバ姉、すっごく朝から幸せそうアル」
「か、神楽ちゃんったら……もうっ」
ミツバが恥ずかしそうに両手で顔を覆っている中、土方はといえば、般若の様な視線を叩きつける彼女の弟に、意味もなく冷や汗を掻いていた。
「昨夜は、よっぽどトッシーが優しかったアルナ」
「おまっ!」
土方が横やりを入れたが、神楽は開き直った様に言葉を続ける。
「別に、私はやらしい意味で言ったんじゃないアル。ただ、昨日ミツバ姉に電話した時、ミツバ姉の声が、いつもより三割増し嬉しそうだったから、二人でいい時間がとれたんじゃないかって思っただけアル」

神楽の笑顔は、先ほどの企んだ様な表情とはうってかわって、本当にミツバの事を思っているだろうと思える笑顔だった。
その神楽の笑みにつられて、側に居たお妙とまた子がふわりと笑みを見せた。
その表情は、頑張り屋のミツバが、甘える事が出来たのだろうと、安心している様にも見えた。

「ミツバちゃん、土方さんと、行きたい所に行けたの?」
お妙の言葉に、ミツバは笑みを見せた後、ゆっくりと頷いた。
「何か買って貰ったッスか?」
「たくさん。沢山買ってもらってね、何だか申し訳なかったのよ」
「何言ってるアル! 将来はミツバ姉が家計の手綱を握らないといけないアル! 今の内から慣れとかなきゃ駄目ヨ!」
神楽の言葉に、ミツバは、あっと、言葉を詰まらせた。
そしてそう遠くない未来の事を想像したのか、嬉しそうに笑った。
「きっと、何だかんだ言って、ミツバ姉の尻にトッシーはしかれてしまうネ」
得意げに神楽が言うと、沖田が横やりを入れてきた。

「ちげぇねー。つーか、いっそ踏み潰されてしまえばいいんでェ」
沖田の言葉に、土方は額に青筋を浮かび上がらせた。
「尻にしかれてんのはオメーだろう」
乱入された高杉の言葉に、今度は沖田が額に筋をあらわした。

「いやァ、俺はお妙さんに全て任すぞ。何、お妙さんに任せとけば、近藤家は安泰だろう?」
言いながら近藤は大口をあけて笑い出す。

一色触発な雰囲気を醸し出しつつも、その場が和んでいたのは、それぞれが、有意義な休日を過ごせたからに違いなかった。
ちらりと、また子が高杉の方を見れば、高杉は、何か企んでいる様にククっと笑う。
それにほっぺを膨らましたまた子だったが、高杉の側へと行き、絶対に家計は自分が守ると鼻息荒く意気込むと、その表情を見た高杉は、普段あまり見せない様な優しい笑みを、ほんの一瞬また子に見せた。

まだ若干照れた様な様子の土方をミツバが見れば、土方は無理やり平然を保とうとする。
けれど何もかもお見通しなミツバは、そんな様子の土方を見ては、くすくすと笑った。
案外沖田の言う事が、当たってる様な気がしてきた土方は、そんなミツバから視線をそらすと、恥ずかしそうに照れた表情を浮かべつつも、それも案外いいかも知れないと思っていた。


手綱を握るのは私以外誰がいるんだと意気込むお妙を見ながら、近藤は、自分こそが一番幸せだと、心底思っている。

そんな様子を見ていた神楽の表情は、自然とやわらかくなっていた。

そして、今、この状況を、改めてよかったと息をついた。
もしかしたら、妊娠を告げた時点で、別れる羽目になったかもしれない。
けれどそうせずにすんだのは、やはりこの、頼もしい男達が居たからだと思った。

神楽が視線を横にずらすと、当然の様に其処には沖田が居る。
たったそれだけの事だったけれど、込み上げてきた幸せに、急に恥ずかしさを覚え思わず視線をそらしてしまう。
その神楽の顔を、沖田が覗きこんだ。
息を呑んだ神楽の顔を楽しそうに沖田は見ている。

「な〜に想像してんでェ」
「んなっ! 別に……」
「うちは、亭主関白だろィ?」
「はァ? ば、バカな事言わないでほしいアルっ。既に尻にしいているネ」

自分の言葉に、天邪鬼の神楽が何と言うのかが分かっている沖田は、意地悪そうに笑う。
そんな沖田を見た神楽は、どっちの未来であっても、絶対に自分は幸せだろうと、頬を染めた。

「だ、大体っ、亭主関白なんじゃなくて、お前のは我侭なだけアルっ」
そんな我侭を、きっと自分は、あ〜だこ〜だと言いながら聞いていて……。

「はン、何いってやがる。我侭はオメーの得意技だろうが」
そんな我侭を、今も未来も、きっと自分は愛しく思っているんだろう……なんて思ってみたり……。

いつのも様に、ほっぺたを膨らました神楽に、面倒くさそうに項を掻きながら息をつく沖田の手がからむまで、
きっと時間はかからない。




つまりは、尻にしかれてるって事。



・・・・To Be Continued・・・・・




 


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