act 24

宿泊先のホテルに着く頃には、忙しく遊びつかれ寝ている生徒もちらほらと見えた。

神楽は部屋につくなり、沖田に貰ったあのリングを、カバンから出した。
まだ、信じられない自分が居る。
あの沖田が、自分の為に買ってくれたもの。

嬉しくて、たまらない……。




「神楽ちゃん、それな〜に?」
わっと息をついた神楽の後ろで、首をかしげたお妙が居た。
「こ、これはえっと……あの……」

嬉しいか、お妙はピンときてしまう。
沖田に連れ去られるように居なくなったと思えば、ぽったりと腫れた顔で神楽は帰ってきた。
これは何か沖田に酷い事を言われたんじゃないかと、また子達と心配したが、神楽の表情をみれば、すぐにそうじゃないと気が付いた。

じゃあ何故泣いているの?
聞きたいのは山々だったが、バスの中では狭いゆえに、席が離れているとはいえ、沖田に聞かれてしまうかもしれない。
そう思って、ホテルへの到着を待った。
そして今、神楽の手の中にある物……。

「沖田さんから貰ったんでしょ?」
言うとすぐ、神楽の顔が染まった。
そして二人の中に、荷物を整理していたミツバと、部屋の中を意気揚々と探っていたまた子が加わった。

「うわっ! マジッスか? 本当に沖田さんに貰ったんスか?!」
また子は、ベットの上に寝転がり、ほうづえを付きながら興奮している。
恥ずかしくて声が出ない神楽は、ゆっくりと首を頷かせた。


その場に、パッと華が咲いた。
「神楽ちゃん、良かったわね」
ミツバが柔らかく言うと、恥ずかしながらもミツバと視線を交し、神楽ははにかんだ。
「つーか、沖田さんもヤるっスねぇ! さっさと付き合っちゃえばいいッス。 てか、もう付き合ってる的な感じッスよ」
「そーねぇ。もう沖田さんの気持ちなんて、バレバレよ。神楽ちゃん。さっさと告白しちゃいなさい」

お妙とまた子は神楽にそう仕掛ける。
けれど肝心な神楽は、ここまでされても、まだ首を縦に振らなかった。

「神楽ちゃん、総ちゃんの事、すき?」
俯いた神楽に、ミツバの声が神楽へと届いた。
神楽は視線をゆっくりと上へとあげると、ミツバを見つめながら口を開いた。

「私、弱虫だもの……。こんな自分が嫌いでたまらないアル。沖田の事が、好きで仕方ないのに、その思いを伝える勇気がどうしてもないアル……」
「何が、そんなに恐い? 総ちゃんの返事が、恐い?」

ミツバの問いに、神楽は一度言葉に詰まった。
そんな神楽を、心配そうにお妙達は見ている。

「だって……人の心なんて、結局の所、分からないモノ……。期待する自分が居る分、優しくする、たまにちょっと見せるアイツのやきもちを見る分、もし、答えが違うものだったら……。分かってるアル。女の子は皆、そこを乗り越えて告白しに行くアル。私だって、そう何度も思ったけど、やっぱりフラれちゃったらって、恐くなって……」

知らず知らずのうちに、神楽はぎゅっと沖田からもらったリングを握り締めていた。

もう十分期待している自分が居る。

告白したら、きっとOKしてくれる、そんな風に思う自分が居る。
でも、やっぱり恐い。
もしフラれてしまえば、今まで通りになんて、沖田と話せない。
そんな風に思う自分が強くて……。

お妙達は、ほんの一瞬だけ、視線を交わした。
自分達が、付き合っている人がいるから、なんて、もしかしたら神楽にプレッシャーを与えていたのかもしれない。
あのドS王子と呼ばれるあの男が、何人女子に告白されても、OKするそぶりを見せないのは、神楽の事が好きだからなんて、分かってる。
でも、そんな二人にも、物事にいつだってタイミングがあるように、二人しか分からないタイミングがあるのかもしれない……。

「そうね。女の子だもの。ドキドキしちゃうわよね」
言ったお妙の言葉に、また子だって、ミツバだって納得した。
付き合ってない二人だからこそ味わえる恋の味がある。
もしかすれば、神楽はまだそれを味わってる最中なのかもしれない。
そしてそれを味わい終えると、やっとその向こう側が見えるのかもしれない……。




「神楽ちゃん、お風呂! お風呂に行きましょう? ね?」
お妙は神楽の手を引いた。

「そうっス! ご飯までまだ時間があるッス! 汗も疲れも、ぱぁ〜って流すんスよ!」
さっきまでの質問攻めが嘘の様に、二人手を引く様子に、少々神楽は唖然となる。

そんな事かまうもんかと手を引っ張る二人の後から、見守る様に、ミツバは後をついて行った。





十分に汗を流した神楽達が、食事の時間も近いという事で大広間へと向っていると、沖田達の声が聞こえた。
思わず足を止めた神楽。
けどやっぱり様子が気になる様で、そっと遠目に様子を伺うと、他のクラスの女子が、その場にたまっていた。

ほんの少し浴衣を着くずし、長い髪には雫を流す。
その色っぽさは、遠目ではっきりと感じ取れた。
神楽はまだふくらみの足りない自分の胸を見るなり、ため息をついた。

「ほら、神楽ちゃん、行きましょう?」
お妙が神楽の手を引いた。

お妙にせよ、また子にせよ、ミツバにせよ、男の元へ向う権利を持ち合わせている。
けど、神楽はまだ……。

「えっ……あっ、やっぱいいアルっ」
「何言ってるんスか。女子の方が群がってるだけで、ほとんど相手になんてしてないッスよ」
また子の言う事は、もっともだった。
女子が話しかければ、それに返答は返すものの、自分から話かける風もなければ、楽しそうな感じでもない。
むしろ、うっとうしそうにしている。


「で、でも私はやっぱいいアルっ! 姉御達だけで行って来ていいアルっ」

恥ずかしさ、少々の惨めさ、神楽の思考を少しだけパニックにさせた。
「えっ、でも神楽ちゃんっ」
お妙の声が神楽にかかった。
けれど神楽はそれを無視し、足を踏み出そうとする。



「お妙さぁ〜ん!」
ギクリとした神楽の背に聞こえたのは、近藤の声だった。
思わず振り向いた神楽達の視線の先には、たった今お妙達がここに来た事をしった近藤が大きく手をふり、こちらに来てとばかりに、しっぽを振っていた。

「神楽ちゃん、大丈夫。ほら、行きましょう?」
差し伸べられたお妙の手に、今更逃げ出すという事も出来ず、おずおずと手を重ねた。

近づけば、近づくほど、不機嫌になっていく群がる女子達の顔。

また子はかまうもんかと高杉の側へと寄る。
そして隣で笑みを作ってみた。
しかしこの高杉と言う男は、人前でベタベタする様な男ではないので、しらっとそのまた子を無視した。
分かりやすくショックを受けるまた子を見るなり、高杉は満足そうに笑みを作る。

近藤は、ひたすらお妙に話をかけるが、その肝心なお妙はといえば、神楽が意図して沖田に近づこうとはしないので、その神楽をミツバと二人相手にしている。
その側から、土方が何も問題なく神楽に話しかける。
沖田じゃなければ大丈夫な神楽は、その話に、ホッとした様にのっている。

と、なれば、何故か、沖田が一人ポツンとなってしまった。

別にその事を沖田が気にしてる風は無かったけれど、神楽が自分の元へと来ない事に関して、不機嫌だった。



結局、神楽が何故泣いていたのかは、分からずじまいだった。
けれど、あのリングをプレゼントした時、神楽は嬉しそうにしていた。

脈絡はある。

そんな沖田だったが、本気で女を好きになったのが始めてだったゆえ、告白と言うものをした事がない。
だからこんな中途半端になっている。

しかし、正直こんな中途半端な状態にうんざりしている。
周りをみれば、自分と同じ性質を持つ高杉、土方や、近藤だって、女の側にいれる権利を持ち合わせていて……。

尻込みするのは、自分らしくない。
そんな思いに、沖田はずっと捕われていた。

だから思い切って、あの屋上で気持ちを伝えようとしていた。
似合わないが、緊張だってした。それでも神楽の事が好きだからと、そして又、神楽も自分の事を……そうほんの少しでも思う事が出来ていたからこそ……
なのにも関わらず、あの担任が邪魔をして……。

ため息を付いた沖田の隣、女子が勝負笑みを作っている。
高校三年ともなれば、その体の魅力は、大人とほとんど変わらない。
神楽と違い、出るとこは、しっかりと、そして締まるべき場所はしっかりとしまっているその体は、普通なら男が真っ先に目がいくところだった。

しかし、沖田は興味もなく、その女を無視し続けている。
沖田が考える事と言えば、近藤は置いとくにせよ、神楽が土方、そして何時の間にか輪の中に入っている高杉と楽しそうに話しているのが気に入らない。そんな事だった。

そんな沖田の前に、おずおずと神楽がやってきたので、心臓が高く音を鳴らした。
「あ、あの……」

神楽の後ろを見てみると、どうやらまた子達が、またいらぬ世話をしたらしかった。
話しかけに行けとでも言ったのだろう。
頑張れと神楽の背中にガッツポーズをしている。

そんな様子を沖田に気付かれると、ハッとした様に、そ知らぬふりを決め込んでいた。

神楽は、沖田の前で、浴衣をモジモジと握り締めながら、何を話したらいいものかと考えているようだった。
そんな神楽の様子が、沖田の目には、可愛くうつってしまう。

スタイルがいいなんて、お世辞でも言えない。
小柄な体に、控えめな胸。
けれど、自分の前で意識をしているのも、緊張しているのも、手に取る様に伝わる。
まだしっとりと濡れた髪を肩にたらし、赤く染まった顔を俯かせ、恥ずかしそうにしている神楽は、誰よりも可愛く沖田に映っている。

思わず沖田の頬は染まる。
それに気付いた高杉と土方、そして近藤までもが、にやにやとしている。

「あのっ!」
一際神楽の声が高くなった。勇気を振り絞ったのだろう。
その直後、ふきだすような笑い声がその場を包んだ。

沖田の隣に居た、女達だった。
沖田の為に、恥ずかしながらも声を出す神楽の事が可笑しかったのか、自分達と比べ、お子様体型な神楽に勝ち誇った意味で笑ったのか、それは分からない。

けれど、精一杯話しかけようとした神楽の気持ちをぐちゃぐちゃにするには、十分だった。

何を笑われているのかは分からない。
けれど自分を笑われたのは絶対だと、神楽は感じた。
握りしめていた浴衣を、コレ以上ないくらい、もう一度握り締めた。

頭は真っ白だった。

顔をあげると、もしかすれば沖田も笑っているかもしれない。
自分に、何か変な所があるのかもしれない。
笑われている理由が分からない……。

でも、笑われている。

恥ずかしさで、頭の中がぐちゃぐちゃにまみれた。

「っ……!」

皆、あ、も言う暇も無かった。
笑った女子に、何を笑っているんだと言ってやればよかった。

けど、皆にも分からなかった。
神楽の何を笑われているのかが……。

そして気付いた頃、神楽は沖田に背を向け、走り出していた。

「神楽ちゃん!」
また子の声、そして、すぐにミツバや、お妙の声が重なった。
しかし神楽の背には届いたけれど、神楽の頭の中には届かなかった。

まだ、クスクスと笑っている他クラスの女子、その顔がいきなり引きつった。
見た事もない様な、冷たい視線。
沖田の表情に、思わず喉を鳴らした。

沖田は、その女子に何も言う事はなく、その場を去った。

神楽を追って……。




_……To Be Continued…
 
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