act 23

エレベーターのすぐ出た所。
客が何度も入れ替わるソレを見ながら、沖田総悟は、神楽同様、当然質問攻めにあって居た……。



「オイ総悟。何かあったんだろう? だからチャイナさんはお妙さん達に連れて行かれたのだろう? んもうっ! ずるいじゃないかっ! もったいぶらずに教えてくれ! さっ、何があったんだ?」

近藤は、容姿に似合わないキラキラの瞳をさせ、沖田と神楽の発展を聞きたがっていた。
土方や高杉達も、あまり表情には出していないが聞きたそうにしていた。
しかし、沖田がそんなコトをベラベラと話すのを苦手としているのは、皆分かっていた。
だからこそ、そんな事かまうもんかと突っ込んで聞く近藤の存在が鍵になっていた。

沖田は気まずそうな面持ちをしながら、軽く項を掻いた。
ふと、神楽はお妙達にどんな質問攻めにあっているのか気になった。誘導作戦が上手い彼女らの事だ、
単純な神楽はあっと言う間に何があったか話してしまうだろう。
そしてそれを話す神楽は、一体どんな顔をしているのだろうか?

あんな事をしてしまった神楽は、一体どんな気持ちで、お妙達に話して居るのだろう……?




「総悟っ! ずるいじゃないかっ! どんな進展があったんだ? チャイナさんの頬を見れば一目瞭然だぞ?」

物思いにふける沖田の耳に、再び急かせる近藤の声が入って来た。
沖田は、近藤の目を見た後、観念したように息を吐いた。

「ただ……」
「ただっ?!」

「気持ちが焦っちまったと言うか……もういっそ……この曖昧な関係に終止符を打ちたくなったと言うか……」

沖田の口から、素直に出てきたのは、間違いなく本音。
相変わらず高杉と、土方は飄々としているが、間違いなくこの沖田の言葉に興味を抱いている。

「考えるより先に手が出ちまったんで、それにともなった行動をしようとしたんですがね」
「手とはっ?! ぐぐ具体的に?! まままさかお前、今度は確信的ちゅ〜をっ?!」

近藤は、もともとのゴリラ顔を更にゴリラゴリラにさせ、鼻息まで荒くさせている。
土方と、高杉の視線も、とうとう分かりやすく沖田に集中していた。

「あぁ、確かにあのままいきゃあ、やばかったかもしれやせんね。何せアイツ、破壊的に……。ただ、今回はしてやせん。残念な担任が顔を出したんでね」

思い出した様に、沖田は悪魔の形相になっていった。
このままあの担任を呪い殺そうとでもしそうだった。
そんな沖田に、まだまだ足りないとでも言う様に近藤は詰め寄る。

「じゃぁ一体手を出してしまったとはっ?! 総悟っ! 結末を取り上げられた映画みたいで、こう胸の中がモヤモヤとするじゃないかっ!」
高杉と土方が一言も言葉を発さずとも、全部近藤が動いてくれていたので、二人はただただ見ているだけでよかった。

そんな四人を、デパートに来ている一般客は、先ほどからチラチラと見て、指を指しては頬を染めこそこそとなにやら話しをしている。
その指は、沖田であったり、其処からツツツと横にそれて高杉や土方へと向っていた。
その視線に三人は気付いているが、特に気にしてない様だった。

沖田は、もう一度、ゆっくりと息を吐いてから、口を開いた。

「抱き締めちまって、危うく口を滑らしてしまいそうだったって事でさァ」
口を滑らせてしまいたかったけれど、そう沖田は胸の中で付け加えた。

近藤は、歓喜を表しきれない様で、唇をわなわなとさせている。
高杉と土方は、口元をあげ、にやにやと沖田の方を見ていた。

近藤はともかく。だからこの二人の前では何も言いたくないのだ、沖田は思ったけれど自分で白状してしまったので仕方なかった。

「テメーの事だ。このままホテルにでも直行する予定だったのかと思ったぜ?」
憎たらしい高杉の言葉だったけれど、沖田が神楽に対してそんな事をする訳がないのは承知している。
きっと気味が悪いぐらい大切にするという事も、ちゃんと分かっていた。

「けっ、テメーと一緒になんざするんじゃねー」
すかさず返された沖田の言葉を、高杉は鼻で笑った。

その会話を中断する様に、神楽達の声が聞こえてきたので、全員は同時にそちらを振り返った。

「待たせてしまってごめんなさい? さっ、もうあまり時間はないけれど皆で何処か回りましょうか?」
何事もなかった様に、お妙は切り出し、皆、何ごともなかったかの様に、それに同意した。

そんな中、ちらりと神楽は沖田の背中へと目をやった。思い出して、又ちょっと顔が染まったので、パチパチと顔を叩いた。そんな神楽を、ミツバとまた子は見るなり、くすりと笑った。




エスカレーターを使い、洋服の階へと神楽達は下りた。

下りるなり、必然的に、女子と男子は別れて、それぞれ洋服を見ている。
そんな中でも、やっぱり神楽は沖田の様子を、チラリ、またチラリと見てしまう。
「沖田さんの側に行きたい?」
背中にかかったまた子の言葉に、神楽は背筋を張らせ、飛び上がった。
「なななに言ってるアル! たたただ私は、沖田はどんな服をみてるんだろうな〜って」
振り返ったまた子の顔は、高杉と同じ様に憎たらしい顔だった。

「じゃ、どんな服を見てるのって、行って来たらいいッス」
「な何も別にっ……そんな事っ……」
神楽はそういうと、適当に自分用の服を見だした。くくくとまた子は笑ったけれど、コレ以上いじめてはかわいそうだと、高杉の側へと足を向けた。

ホっとした神楽だったが、その後、インテリアの階へと行った時も、近くには寄らなかったが、やっぱり沖田の方を見ては、俯いた。
しかし神楽は気付かなかった。
沖田も又、神楽と同じように、土方や高杉に、神楽の方ばかり見ていると指摘され、近くに寄ればいいじゃないかとからかわれてた事を……。

上に、下に、神楽達は階を巡った。
そして、アクセサリーの前で神楽は立ち止まった。
自分が何を思って立ち止まったか、すぐには分からなかったけれど、無意識に見ている物で納得がいった。

ペアでのアクセサリー……。

一緒につけて――。
何て言えるはずもなかった。だって自分達はそんな関係と呼べる名前を持っていないのだから。
それでも神楽は其処から目を離す事がどうしても出来なかった。
目の前には、世の女性や男性のハートをくすぐる宣伝の言葉が並べられている。
そのありきたりな言葉に、神楽は言うまでもなく、揺れていた。

特別な存在じゃないけれど、特別なモノが欲しい……。
特別な関係とは呼べないからこそ、特別なシルシが欲しい……。

思わず神楽はペアリングを手に取った。
高価が物なんかじゃない。自分達にも、ちゃんと手が届くくらいの値段……。

(指輪なんて……あいつのガラじゃないアル……)

思ってすぐに置いた。
けれど今度はネックレスをユラユラと揺らした。
その揺れるネックレスから、どうしても目が離せない。

ただ、欲しかった。

けれど、やっぱり現実をふと感じると、神楽はフッと諦めたように笑った。
足を一歩後退させた。未練はたらたら。
けれど、それを付けるに相応しい名前を会得する勇気が自分には無い。
ならば、コレを欲しがる権利もない様な気がした。

自分では一歩踏み出す事が出来なくて、でも思いは膨らんでいく。
ジレンマにイライラとした。
けれど、イライラする事で前に進めるほど、簡単な感情ではない事は、自分が一番よくわかっていて……。

神楽は諦めるように、其処に背を向けた。
後ろ髪を惹かれる思い……。

その後もウロウロとしたけれど、頭の中には、あの商品ばかりが浮かんで、話かけてきたお妙やミツバの声も、心ココにあらずで聞いていた。

結局、集合時間が来てしまった。
何かいいものが見つかった? そんなまた子の声に、神楽は控えめに笑うだけだった。

沖田に抱き締められたあの瞬間から、【好き】がどうしようもなく溢れて、溢れて、気を緩めてしまえば、泣き出してしまいそうだった。
側に、いつも居れる権利が欲しい……。
思うだけの自分が歯がゆい……。

そんな事を思っている神楽の背が、いきなり引かれた、と思ったら、すかさず手を引かれるがままずるずると集合場所から引き離された。
振り返った神楽の視線の先にあったのは、自分の手を引く沖田の背中。

驚いたのと、嬉しいのとで、歓喜あまった神楽の瞳に、涙がたまった。
人気の比較的少ない場所へと連れてこられた神楽を、やっと沖田は足を止め振り返った。
そして、ぎょっとさせた。

感情の制御ができなくなった神楽が、泣き出していたのだ。

口を開いては、また何かを飲み込むように閉じて……。嗚咽の合間にそれを繰り返している。

「ちょっ……はっ?」
動転した沖田の前で、尚も神楽は泣き続けた。

(好き……好き……。コイツが、好きでたまらないアル……) 
拭っては溢れ、拭っては溢れ……。

沖田は唖然となっている。
それも仕方のない事だったのだ。なんせ、何も自分に心あたりは無いにも関わらず、目の前で好きな女が号泣しているのだ。
それが、自分の事を好きだから。なんて理由を、沖田が考え付くはずもないのは、当然の事だった。

神楽は、鼻をズッと鳴らす。

「何か……嫌な事でも、あったのか?」
沖田の問いに神楽は首を振った。
「じゃぁ、何で泣いてんでェ」
この問いにも、神楽は首をふるだけだった。

自分が好きでどうしようもない女が、目の前で泣いている。
理由なんて、そんな事、どうでも良かった。

沖田は神楽の肩にそっと手をやると、やんわりと神楽の肩を引いた。
トッと躓くように、神楽の体は沖田の体へと倒れるような形になり、それを、沖田が受け止め、抱き締めた。

たまに道をそれた様な客が、その場を訪れたが、まるでまずい物を見てしまったような表情を一瞬させた後、すぐに、また背を向けた。

神楽は、キュッと沖田の制服を掴んだ。
(すき……)

鼻をこすりつけている制服から、沖田の匂いがする。
どんなに乱暴でも、どんなに口が悪くても、この人がいい……。
思っては、また、嬉しくて、切なくて泣けた。

沖田は、神楽の背を、ゆっくりとさすった。

神楽の髪から、神楽の匂いが、沖田の鼻をかすめた。それだけで、その抱き締めている手の力を込めなおした。

ゆっくと、神楽の震える肩が、落ち着いていくのが沖田にも伝わった。
最後に、鼻をスンとならすと、神楽の心臓が、安定し、沖田の元へと音色を届けた。

「十分泣いたかよ?」
相変わらず憎たらしい声だったけれど、それだけでも神楽は嬉しかった。
ゆっくりと頷いた神楽は、おずおずと沖田の腕の中でもがき、顔を出した。
泣き濡れた神楽の顔に、沖田は、理性が吹っ飛びそうな感じに襲われる。
カーと、体が熱くなっていくのが分かった。

「ごめんアル」
「あ、……いや、別に……」
まったくもって、いつ投下されるか分からない神楽の萌え爆弾が、惜しげもなく沖田の頭上から振ってくる。
慌てるのは仕方なかった。

下からチラチラと眺めてくる神楽の顔を直視できず、そして、真っ赤になりつつあるその自分の顔を隠す様に、そっぽを向いた。
そして、話題を切り替える様にに、ポケットの中から、ソレを出した。

「これって……」
小さな四角いケースの中へとあったのは、神楽がずっと見ていた、あのペアリングだった。
「馬鹿みてェに、ずっと見続けてたから……、ほら、店員も迷惑だろうがっ……。だからっつーか――」
しどろもどろになる沖田の前で、神楽は言葉をなくしている。
けれどアレはペアリングだった筈……。

もう片方は……?

思ったけれど、神楽は聞くことが出来なかった。
けれど、それでも嬉しい事には変わりない。あの沖田が、自分のために、買ってくれたもの……。
想像したら、わっと気持ちが高ぶった。

「あり……がとう……」
言った神楽の口元からは、ふわりと笑みが漏れている。
濡れたままの目元は、まだ乾いてなく、頬は、泣いた所為で淡く染まっている。
そんな中での、神楽のはにかんだ言葉……。

恥ずかしくて、沖田はいたたまれなくなってしまった。
「さ、サイズやら何だは、流石に分からなかったから……ま、まぁ……合えばつければいいんじゃねーの」

言うなり、沖田は神楽を置き去りに去って行った。

残された神楽は、ゆっくりと、リングを手にとって薬指にはめて見た……。

大きくもなく、小さくもなく……奇跡的にピッタリだった。
もう沖田はココには、居ない。安心して神楽は大きく笑みを見せた。高くなんかなく、かたわれ数千円のリング。
それでも、そのリングは、神楽の薬指で光り輝いて、神楽の中に、言いきれない程の気持ちを生み出している。

集合時間だと言うのに、神楽は、目をそらす事が勿体なくて、それを、ジッと見続けていた……。



「はぁ――――。焦った」
集合場所での一歩手前、駆けていた足を、やっとと沖田はゆるめ止まった。
この自分の中でまだ沸き起こる動悸は、決して駆けて来た所為なんかじゃない。
沖田は、長く、息を吐いた。

そして、手元を首元へと持って行くと、ジャラリとチェーンを取り出した。

「俺らしくねーけど……買っちまわずには、いられなかった……」
言った沖田の先では、神楽のリングの片割れが、ゆらゆらと揺れている。

中々立ちの退かない神楽の姿を偶然発見した沖田は、その神楽を、遠目にずっと見ていた。
視線の先にあるのはペアアクセサリー。
神楽とアレを付けるのは、自分でありたい。そう思った後には、すぐ買っていた。

沖田は、らしくない事をしたと自分で思いながらも、後悔はしていないと、もう一度じゃらっとソレを揺らし、胸の中へとしまいこんだ……。



……To Be Continued…
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