act 41

土方は頭を掻いた後、やっとと息を吐いた……。

いつものタバコに火をつけた後、向けた視線の先には、ベビー用品を見ているミツバがいる。
煙と一緒に長く息を吐くと、土方は独り言を呟いた。

「やっぱ、こう言う所は苦手だな」

自分で言い出し、店に入ったものの、女性の好奇の視線に土方は単純に堪えられなかった。
しばらくはミツバの隣で歩いてみていたものの、やはり落ち着かず、ミツバの言葉も、頭の中には入ってこなかった。適当に相鎚を打つ土方をみかねたミツバは、柔らかく笑みを見せた後、自分で見るから、外で待っていてといったのだ。

正直、ホッとした。
世の男は、よくこんな店に平然と入れるものだと、土方は思う。
しかし、実の所、こんな場所に男が入ってきて好奇の視線を向けられたのではなく、ただただ、土方の容姿に、好意の眼差しを向けられたのだったが、それに当人が気付いている風はなかった。

勿論、ミツバは気付いていた。
こんな視線は、沖田達と同様、日常茶飯事だったからだ。
そして、そんな視線に、土方が弱いと言う事もしっている。
だから察したのだったが……。

「あら? 土方さんじゃありません?」
声をした方を、土方が振り向くと、手ぶらなお妙と、もう既に荷物持ちになっている近藤がいた。
「奇遇じゃないかっ。何? お前もミツバさんと買い物か? いや〜、やっぱりお前もキめる時は決めるんだなァ」
重なる荷物の中の向こう側で、近藤の声がする。
色々ツッコミたくはあったが、取り合えず土方は其処をスルーした。

「まぁ、一緒に来たんだが、どうにも俺にはこう言う場所は向かねーみたいでな」
なるほど。
一瞬でお妙は、今の土方の現状を見抜いた。

「分からなくもないですが、それでもやっぱり一緒に見てあげた方が良いんじゃありませんか? ミツバちゃん一人では、分からない事なんかもあるだろうし」
「アイツに分からない事が、俺に分かるはずねーだろう?」
想定内の答えが返ってくるなり、お妙は軽く息を付いた。

「土方さん、赤ちゃんを産む、そして赤ちゃんが世に誕生すると言う事を、分からなくても、理解しないと。そして知ろうと努力しないといけないと思いますよ。私なんか、これだけ買って、まだほんの一部なんですよ?」
お妙の言葉に、土方は唖然となったが、かまわずお妙は続けた。

「産むなんて、人生で初めてなんだから、新しい物を購入するのは普通なんです。新しい命が産まれるのだから、それに伴って、新しく物を買わなきゃいけないのは、当然の事なんです。ミツバちゃんは、いつだって土方さんの事を、自分よりも優先にしてしまうの。だから其処は、もっと貴方が気付いてあげなきゃいけない事だと思うんです。たまには、ミツバちゃんが貴方を甘やかすんじゃなくて、貴方がミツバちゃんを甘やかしてあげて。ただでさえ、初めてな事で不安なのに、人の事なんて、本当は心配しているはずじゃないの。それでもミツバちゃんは笑って許してしまう。知らず知らずの間に、自分ではそう思ってないかもしれないけれど、土方さんは、ミツバちゃんに甘えてるんではないかしら? 勿論、頼りがいのある貴方が、唯一甘えられる場所なんだから、それはそれでいい事なんですが、フォロ方十四朗と呼ばれる貴方だからこそ、もっと気が付いてあげて欲しいの」

的確なお妙の言葉に、土方は沖田や高杉のように、反論が出来ない。

今までお妙の言葉を、ずっと黙って聞いていた近藤が、荷物を地面に置いた。

「その……、何だ。あんまり金銭面とか、一々口を出すべき事じゃないとは思うんだがな……。お妙さんを含め、皆、ほら、妊娠して仕事を辞めてしまってただろう? うちでバイトみたいな事をするまで、ずっと貯金を切り崩して生活していたらしいんだ。あぁ、チャイナさんは甘え上手だから総悟に、色々と言ってはいたと思うんだが……。ミツバさんは、甘えるのが、苦手だろう? だから自分の服も、節約して買わないし、ベビー用品だって、うちからのバイト代をすこしずつ貯めて買うつもりだって、お妙さんに漏らしていたらしくてな。まだ皆、籍を入れた訳でもない。だから余計先回りして、そう言う事を感じてやっちゃもらえんだろうか」

思い返せば、ミツバは、自分に一度とて生活が厳しいからとお金を頂戴、などと言った事がなかった。
土方自身、あまりにもミツバが普通に暮らしたので、あまりそんな事を考えた事はなかった。
ちらりとミツバの方を見る。やっぱりミツバは微笑みながら、とても幸せそうに赤ちゃんの服などを見ている。
が、その手の中には、たった一つだけしか握られていない。

見比べるように、近藤に置かれた荷物の数々を、改めて見た。
新しい命が産まれると言う事は、新しい物が沢山必要になる……。
お妙の言う言葉が、納得出来た。

土方は、吸っていたタバコを、ポトリと落とし、足できゅっと踏み潰した。
そしてお妙達に言葉を発する事はしないまま、二人に背をむけた。
近藤とお妙は、土方が、もともとこう言う人間だと知っているため、そして、ちゃんと自分達の言う事が、彼の心に届いた事が分かっているとでも言う様に、二人して、笑みを見せた。




(黄色と緑だったら、どっちが可愛いかしら? 十四朗さんそっくりだったら、緑やグレーも似合いそうだわ。あっ……でもこのピンクだって、でも白も可愛らしいし……)
いくつものベビー服を取っては、戻し、取っては戻し……。
そうしているミツバの手の上から、その服ごと、土方が掴んだ。

「気に入ったものは買えばいいじゃねーか」
「あっ、うん。でもね、別に今すぐじゃなくても――」
ミツバが言っている側から、土方はその手に持っている服全てを取り合げた。

「あのっ……十四郎さん」
土方は、ミツバの言葉を無視すると、そのままミツバの手を引き、今度はミツバの服を見るために足を進めた。
黙々とミツバの服を見ては、その服を腕にとかけていく。
その服の量は、どんどんと増えて行く。
呆気に取られているミツバの方を、土方は急に振り返り直視した。

「前に、もっと甘えろと言ったと思うが?」
土方の意図が、やっと掴めたミツバは、申し訳なさそうに土方の方を見た。
「だって……」

ため息を思わず吐いてしまった土方だったが、少なからず、ミツバが甘えにくい態度を取ってしまっている自分にも比があるのは、もう十分分かっていた。
だからと言って、なんと言葉に出していいやら分からずに、今さっきミツバにと選んだ服を、ミツバの前に差し出した。

「オメーに、似合うと思うんだが」
ミツバは、ふわりと笑った。
「とても、可愛いです」

「でも……」
いいながら、ちらりとミツバは値札を見た。
「俺がお前と、腹ン中の子に買ってやりたいんだ。それとも……迷惑か?」
ミツバの答えは、分かっている。
だからこそ土方は憎たらしい笑みを浮かべた。

「もう、ほんと……いじわるね。十四郎さんはっ」
ミツバの甘ったるく、やわらかい声が、土方の耳を刺激しながら心臓へと届く。
土方は、やっぱり、いじわるそうな笑みを浮かべると、柔らかいミツバの髪を、ふわりとなぜた。






……To Be Continued…
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