act 22

「お、沖田……」
別に身構える必要はなかったけれど、何となく、自分の事を思ってくれた沖田に対して、恐怖を覚えてしまった事が後ろめたかった神楽は、まともに沖田の顔を見ることが出来なかった。
それを支えてくれたのは、お妙達だった。

「で? どうなの? 処分の方は」
沖田はやはり神楽が気になるらしい。下から上へと何度も見た後、お妙の方をやっと向いた。

「別に、銀八の野郎が何とかフォローしてくれてる風ですぜ」
「銀さん、知ってるの?」
「いや、ただ神楽が関わっている事は察したらしいですぜ。銀八にしてみれば、可愛い妹や子と一緒だろうからな。理事長にはうまく言っとくだってよ。まぁ、いっときは暴れるなとは言ってやしたけど」
「そう」

沖田の言葉に、また子やミツバも、ホッと胸を撫で下ろした様だった。
お妙からの質問にはちゃんと答えたからと、沖田は改めて、神楽の方を見た。
今度はまた子がフォローを入れた。

「可愛いでしょ? やっぱ今時はギャルッス。神楽ちゃんだけじゃなくて、皆スカートを短くしたっスよ! ほら、はちきれんばかりの太股っ! 女子高生はやっぱコレッス!」
このまた子の態度に、沖田も納得はしている風はなかったが、それ以上に不機嫌になっているのは高杉だった。
高杉はまた子を静かに睨んだ。
この高杉の態度に、また子が一気に体を強張らせた。

近藤はお妙のその体に、終始見惚れっぱなしだったが、沖田や高杉同様、何も言わないが、土方も不満を露にしていた。
結局、各々の彼女に何か言いたいのは、近藤以外の全員らしい。
もやもやと広がるその雰囲気の中、神楽は口を開いた。

「駄目……アルか? 私……。姉御達に手伝ってもらって、変わったアル。でも、似合ってないアルか」
瑠璃色の瞳が沖田を見上げ、揺れる。
不安そうな面持ちは、沖田の何か言いたそうな言葉を遮った。
沖田はもう一度、神楽を見た。
ハッキリ言って、数日前の神楽とは、別人の様だった。
いつものトレードマークのお団子頭は緩やかなウェーブをかけた桃色の髪として、今も自分の前でふわりふわりと揺れている。
寒い寒いと言っては、色気も何もないジャージを着たり着なかったりだった姿とはうってかわって、今は神楽の柔らかい太股を、惜しげもなく晒している。
スクールカーディガンが、更にそれっぽさを引き立てて、正直言えば、面白くない。

神楽が可愛い事は、沖田はもう十分に知っている。
だからこそ、誰の目にも本当は触れさせたくないし、今も隠しておきたいと、心底思っていた。
が、神楽の表情を前に、言う事は出来なかった。

沖田はふわりと笑った。
「よく、似合ってまさァ」
安心した様に微笑んだ神楽を他所に、土方達は、思わずギョっとさせた。
独占欲で生きている様な奴が、よもや言葉だけではなく、笑みまで出している。
けれど、沖田がもう二度と神楽を傷つけない様にしているのは嫌でも伝わってくる。
だからこそ、土方達は何も突っ込まなかった。

「本当? 変じゃない……アルか?」
「いや、妬けちまうくれェ、綺麗でさァ」
沖田は、スッと神楽の髪に指を通らせた。いつも、神楽はお団子にしていたので、本当にごく稀に神楽が髪をほどいた時に出来るコレが、沖田は好きだった。
自分だけの特権の様な気がして、たまらなかった。
けれど、たまにだからいいと思う気持ちもあって……。

神楽は安心した様に、沖田へと手を伸ばした。
どんな場所だっていい。抱き締めたかったし、抱き締めて欲しかった。しかしそれに待ったをかけたかの様に、銀八の声が響いた。

「沖田くーん。とりあえず、理事長が来いだってよ」
見れば、銀八が、沖田に手招きをしている。
そして、まもなく、銀八は、土方や高杉、近藤にも指を指し、同じように手招きをした。
また不安そうになった神楽の頭を、沖田はいつもの様に、ポンポンと叩いた。
「私の所為で、沖田、処分くらっちゃうアルっ! 私銀ちゃんに言ってくるアルっ!」

突発的に出た神楽からの言葉に、その場の全員は、先ほどより更にギョッとさせ、神楽の進行を防いだ。
「オイ、チャイナ。いいからオメーはミツバ達と待ってろ」
土方の言葉だったが、神楽はすぐに首を振った。
「嫌アルっ! 皆がどうにかなっちゃうなんて、私嫌アルっ!」
三階からの机を破壊する行為、教科書を躊躇いもせずに燃やした行為。きっと生徒だって沢山見ていた。
自分が原因で、沖田達が停学、もしかしたら退学になるなんて、絶対嫌だった。
そんな事になる位ならば、今から、たった一人で理事長の所に言って、全部、全部今までの事をぶちまけたって、全然良かった。
あれほど、銀八に言いたくないと思っていた神楽だったが、今は、本当に、その覚悟があった。
しかし、当然、それを止めるのは皆であって。
「大丈夫っ! ほら、神楽ちゃん行くっスよ!」
また子は無理やり神楽の手を引いた。その手を難なく神楽はほどいた。

「絶対嫌アルっ!銀ちゃ――――」
言おうとする神楽の口を、沖田が、半ば無理やり塞いだ。己の口で……。

しばし呆気に取られていた土方やお妙達だったが、神楽のしようとしている事に比べれば、こんな事、どってことなかった。
神楽は沖田の腕からもがき、逃れようとする。が、それを許さないと言う様に、沖田は更に神楽の腰に手を回し、頭を巻き込むように、強く重ねた。何も神楽が話せない様にと、舌を絡めた。
少し遠く離れた其処では、銀八がその光景を、まるで般若の様な形相で見つめている。
二度目になるが、銀八は神楽の兄代わりでも、父親代わりでもある。こんなシーンを見せ付けられて、嬉しいはずがない。

背中にザクザクと突き刺さる銀八の視線の矢が鬱陶しくなってくる頃には、神楽の体も、沖田の舌技によって、クタリとなっていた。

「すぐ戻ってくる。どうせ、状況の説明を本人の口からってんだろ。心配すんな」
離した唇を、沖田はもう一度神楽のおでこに落とした。

何も心配したのは、神楽だけじゃない。
また子だって、ミツバだって、勿論お妙だって心配している。
実行犯は沖田だったが、それを黙認していた時点で、土方達も同罪な訳であって。けれど、あの行為を、生きすぎだとは思えど、後悔はしていなかった。

その思いを汲んだ様に、ミツバはただ微笑んだ。
ミツバのその柔らかい髪を、土方は一度くしゃくしゃとさせると、背を向けた。

不安な様子が駄々漏れなまた子に、言いたい事は、色々あるが、と高杉は思ったが、とりあえず、ほっぺたをつねるだけにした。お妙は、何も言わず、ただ近藤の方を、まるでいってらっしゃいとでも言う様に、微笑んだ。



_……To Be Continued…
 
拍手♪

作品TOPに戻る







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -