act 21

「あれって……私のためだったって事アルか?」
女子トイレの中、神楽、また子、ミツバ、そしてお妙は鏡を覗きながら雑談をしていた。
ココなら、誰にも邪魔をされないだろうと、お妙が言い出した場所だった。
「多分間違いないと思うの」
お妙の言葉だったが、神楽はまだ信じれないでいる。
「でも、何で?」
また子が口を挟んだ。
「神楽ちゃんに嫌がらせをしていた子達じゃないっスか? それを何らかで沖田さんが知っちゃったんスよ。もしくは、調べたか……」
確かに、沖田がいくらなんでも、理由もなくあんな事をする風には思えない。
でも、どうして知ったのか? そしてアレほどまでにしなければいけなかったのか……。
あの沖田の瞳。普段自分を見る瞳とは、全く違った。同じ女にも関わらず……。
あんな冷たい目が出来る沖田が居たのか……そう思うと神楽は恐くなった。やっぱり、今回の事を知られたのは、間違いだったんではないのか。そんな事さえ思った。

神楽に嫌がらせをしていた女子にあれだけの事を出来るなら、自分をこんな風にしてしまった男の考えると、恐くて震えた。
普通じゃ考えられない。三階の教室から、三人分の机を放りなげるなんて。
普通じゃ考えられない。今勉強している教科書を、躊躇いもせず、燃やすなんて……。

それを普通に見てる土方も、近藤も、高杉も……。
自分じゃ考えられない事を、普通の事の様に出来てしまう……。

嬉しいのに、喜べない。嬉しいのに、沖田とは世界が違うのかと、思いらされた気がした。
転校する前から、自分は勝気だった。それでも、あんな風に人を冷たく見下ろした事はなかったし、
あんなむちゃくちゃっぷり、沖田がはじめてだった。

神楽は無言のまま、ずっと考え続けた。
沖田は、自分の為にやってくれたのだ。もし止めてといえば、ちゃんと止めてくれたのだろうか?
それとも、キレたまま、言う事も聞いてくれなんだろうか?

自分は、沖田の一部分しか、知らない。
ちゃんと、自分は、沖田を制御できるのだろうか……。

喧嘩が強いとか、沖田と渡りあえる自分とか、そんな世界、全部、偽者の世界に見えてしまった。
アレが、本当の沖田。自分には見せなかったけれど、あれが、本当の沖田なら……。

「――ちゃん! 神楽ちゃんっ!」
お妙の声に、神楽はハッと此方側へと戻ってきた。
「大丈夫? 冷や汗が額に……」
確かに額には、冷や汗がびっしょりとついている。
ミツバが、それを拭った。
その手を、神楽が掴んだ。
「ね、ミツバ姉……。沖田って……あんな風なのかな? 私が居ない所では、いつもあんな目をしてるのかナ?」
ミツバ達は、思わず顔を見合わせた。
神楽が、あんな沖田に触れたのは、初めてだった。
「あのね……」
「どうしよう……。私の所為で、あんな目……。どうしようっ……どうしようっ……アレじゃ沖田本当にっ……」
ミツバの腕を、強く握りしめた。
「神楽ちゃん、落ち着いて!」
お妙は言う。
「だって……何であんな事、躊躇もなく出来るアルか? だって、皆が勉強する教科書アルっ。それを簡単になんて――」
「簡単じゃないっスよ」
神楽は、振り向くと、また子の言葉をゆっくりと聞き入った。

「沖田さんからしたら、きっと簡単じゃなかったっス。そりゃ、ちょっと行き過ぎてるって思うかも知れないっス。でも神楽ちゃんが転校する前は、正直もっとヤバかったっスよ。そんでもって、それは沖田さんだけじゃないっス。晋介様も、土方さんもっス。でも、神楽ちゃんと付き合う様になってから、ミツバちゃんと、私と、お妙さんと……皆ちゃんと考えてくれてたっス。火の子がウチらに飛ばない様にって。ちゃんと、制御出来てたっス! それでも、どんな事をしても許せなかったのは、きっと、きっと神楽ちゃんの事が、それだけ大切なんス。はっきり言って、私も許せないっス。多分、沖田さんみたく、偶然でも何でも、見つける事が出来たら、きっと私も手を出してるっス。仲間だし、友達だし、恋人だから、きっと許せなかったっス。だから、その証拠に、神楽ちゃんの側にきた沖田さんの目は、あんな冷たい視線なんかじゃなかったっスよ」

神楽は、無言でゆっくりと頷いた。
「ごめんネ。だって、初めて見たし、やっぱ恐いでしょ? あんな沖田……」
神楽の表情が柔らかくなったので、お妙や、ミツバも、ふわりと笑った。
「こんなモンじゃなかったわよ? 神楽ちゃんが転校する前の沖田さんは!」
「マ、マジでかっ。よく人殺しにならなかったアル」
「う〜ん……まぁ、半殺し程度は……日常茶飯事だったかもしれないっス」
空いた口が塞がらない。
「で、でも、今の総ちゃんはとっても優しいでしょ?」
ミツバは必死にフォローを入れたが、神楽の笑顔は、引きつっている。
「でも、あんな沖田が、神楽ちゃんの彼氏っス。強い男は格好いいっスよ? 沖田さんも、土方さんも、近藤さんも、晋介様も、うちらの彼氏は、とっても強いんス。」
神楽は鼻で、めいっぱい息を吸い込むと、ゆっくりと口から吐き出した。

「そりゃ、弱いより、強い方がいいけど……沖田にあんな目をさせるのは……嫌アル」
よしよしと、ミツバが神楽の頭を撫でた。
「神楽ちゃんは、本当に優しいのね。だからきっと、総ちゃんも大好きなんだわ」
大好き……。神楽は柔らかく笑った。
どんな沖田でも、恐くても何でも、結局は好きなのだ。本当は好きなんて言葉なんかじゃ収まらない。
きっと、沖田に溺れてるんだ。神楽は思った。

「さ、とりあえず、次は神楽ちゃんの問題よね? あの沖田さんの顔。もう言いたい事が山ほどありそうだったわよ?」
お妙はくすくすと笑いながら、その女子トイレのドアを開けると、丁度、神楽を探していた沖田達と、タイミングよく、かちあってしまったのだった。



_……To Be Continued…

 
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