53.【孤独】


それから、私達は無事帰還した。
極秘遠征なので出発時と同様、闇夜に紛れて――

幾日か経って一段落した頃、兵団宿舎食堂にて慰労会が設けられた。
慰労会といっても堅苦しいものではなく、いつもの食事に加えてアルコールが飲み放題になっただけの簡素なものであったが。


「おいジャン!じゃんじゃん酒持って来い!」

「何でオレ!?つーかゲルガーさん、ちゃんと目の前のを飲みきってから次頼んでくださいよ……って聞いてねぇこの人」

「なーに辛気くせぇ顔してんだよナナバ。そんなしぶい顔してっと本当に男になっちまうぞ!おら、飲めっ!」

「……うん。ちょっと色々、考えることがあってさ」

「馬鹿かてめぇ!今考えんな!飲んで忘れろっ!」


このときばかりは巨人の事など忘れて、飲めや歌えやの大宴会。
普段生きるか死ぬかの瀬戸際で働いてる分、この団の人間は酒宴で箍が外れると底無しの様に飲み、隠れていたその人格を晒しては互いの親交を深めていた。
はじめのうち、ハンジとナナバはアサギと一緒に飲んでいたが、モブリットとゲルガーが各々割って入り、二人を賑かな方へ連れて行ってしまった。
これらの人間関係も彼女らがここで歩み築いてきた賜物なんだろうと微笑ましく思えば、馴染めないその場の雰囲気に自分だけが夾雑物のような感覚になり、それが余計に明るい周りの空気と自分の暗い内面とのギャップを強く感じ、虚しくなった。
手持ちのグラスを空けると手洗いに行く振りをして、アサギはこっそりと一人離席した。
今日はもう部屋でゆっくりしようと考えていると、


「あら、エルヴィン団長……?」


階段の中程で項垂れ座り込むエルヴィンを見つけ、そばに寄る。
確か見た目通り、お酒には強い人だったはずなのにと首をかしげる。大仕事の後で疲労感から酔いが早く回ったのだろうか。
アサギが呼び掛け揺すっても返事が無い。


「こんなとこで寝てると風邪ひきますよ。立てますか?」


エルヴィンの太い腕に手をかけてソッと引き上げるように促すと、まだ眠りが浅いのか、ゆっくりながらも立ち上がることができた。
しかしながら目は瞑ったまま。もうこの状態で食堂に連れ戻しても机で突っ伏して寝るだけの状況が容易に想像できる。


「エルヴィン団長、今夜はもう部屋でお休みになってください。お連れしますから」


エルヴィンの腕を自らの肩に回して、アサギは担ぎ上げるように支えて階段を上った。
さすがに重い。やっとのことでエルヴィンの部屋の前までたどり着いたはいいが、ここで放置する訳にもいかない。部屋に運び込もうとドアノブに手をかけた。
その時、いきなり腕を掴まれたと思ったらドアに身体を押し付けられた。
ハッとした時にはもうエルヴィンの顔が首元に埋められていたので、起きてるのかどうか、その顔を伺い知ることができない。


「エルヴィン団長……?!ちょ、や……んんッ!」

「……ぃ……」

「?!」


エルヴィン本人が知り得ないところで、彼と過去にゴタゴタがあった以上、二人での接触は避けたいと思っているのに。
けれどアサギは、エルヴィンの消え入るようなその一言で抵抗することを止めた。


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