37. 疾風勁草


――わたしは、どうして生まれてきたんだろう――


ツラいことが多過ぎて、見たくないものを見過ぎて、いつしか自分の存在意義を確かめようともがきながら生きる日々を送るようになっていた。
答えなんて何処にもないのは分かってるから、考えれば考えるほど、虚しいだけなのに……




その夜は、巨人の襲撃を受けて負傷した兵士がいることから、道中にある荒野の小さな古城で野営する運びとなった。


古井戸で体にこびり付いていた乾びた血を洗い流し、皆総出で食料等が入った木製コンテナを城に搬入しているのを手伝おうとするも、リヴァイから『座ってろ』と窘めるように言われ、アサギは一人大広間の隅に座り込む。
皆が忙しそうにしているのを、ぼんやりと眺めながら"自分"という人間について考えてみた。


私一人、この世から消えても世界は回る。居ても居なくても関係ない存在。じゃあ、どうして苦しんでまで無理に生きなければならないの?私にだって人生を終わらせるという、選択肢はあるのに―――


そこにナナバがびっこをひくモブリットの肩を担いで来たことで、黒い思考は途切れた。



「アサギ、ここにモブリットを置いてやってくれ。足を切ったらしい」



彼のズボンに染み込んでいる大量の出血は、既に端の方から乾燥し黒く変色し始めており、止血から少し時間が経過しているのが分かった。



「すごい出血。でも血は止まってるみたいね。モブリット、傷を見せてくれる?それよりこれ……」



どれもこれもが血に染まっていて分からなかったが、患部膝上に止血をしたのだろうか引き裂いたような布がきつく巻かれてあり、アサギはゾッとした。
誰が施したか知らないが、止血方法が間違っている。
彼のズボンの膝から下をナイフで切り離して足を診るに、無理矢理血を止めているから膝下に血が通っておらず、特に足先が真っ青に変色して氷のように冷たくなっていた。



「このままじゃ膝下が壊死しちゃう。とりあえず土が付いてるから傷も洗浄しなきゃ、ナナバ、急いで水持ってきて!」



分隊長がすみません、と何故か謝っているモブリットを横目に素早く傷を洗浄し、傷口をガーゼで押さえて直接圧迫止血しつつ、止血してた布を慎重に外していく。



「やっぱり膝上の止血外したらまだ血が出るわね。10分くらい圧迫するから。ナナバ、大きめにガーゼを切って渡して頂戴」

「分かった」



圧迫に使用している血の滲んだガーゼの上にまた新しいガーゼを素早く乗せて、再び圧迫する。



「アサギ、血のついたガーゼは取り替えなくて良いの?」

「止血してる時、ガーゼは替えないわ。血を止めるのが優先よ。あと気になるだろうけど、傷口を何度も見て確認するのもダメ。ちゃんと血が止まってからね」



心配そうにせっせとガーゼを準備してくれてるナナバと、不安そうなモブリットを諭すように大丈夫だとアサギは笑顔で応える。
結局、傷の範囲が広く出血が多かった割りに、血は直ぐ止まり傷も動脈が切れるほど深いものでは無かったので、アロエで作っておいた軟膏を塗って経過観察とした。
そして、丁度処置の終わった頃に『モブリット!大丈夫だった!?』とシャツの生地の片腕が無いハンジが現れたので、間違った止血方法を指導したのち、彼女にその“片腕”を引き渡し、そこを離れた。


38/61


bookmark
comment

top



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -