38. 知己朋友


ここは古城――と言っても、一種の要塞か砦のようなもので必要最低限の部屋とスペースしかない。
武器弾薬を備蓄していたであろう仰々しい形跡や、古びた拷問器具があちらこちらに放置され、その空いた少ないスペースで皆が各々に炊き出しのスープと、支給されたパンを頬張り羽を休めていた。

いくつか灯る蝋燭の、淡い光の届かない隅で一人、アサギは今だ尾を引く闇から抜け出せずにいた。
最早考えても答えのない空虚の中、意味もなく僅かに開いているその瞳は宙を漂い、空っぽの身体はひんやりした石造りの壁に体重を預けひっそりと息を潜めて。



「さっきはありがと。ほい、お疲れさま」



誰も寄せ付けないように重い空気を、いとも簡単に破ってハンジが視界に入ってきた。
目の前には白い湯気が立つ、いかにも熱そうなスープ。



「―――え、」

「ほら、早く取って。あちち、熱いっ、早く早く!」



食欲なんて無いのに、ハンジの勢いに気圧されて慌てて取った。
間髪入れずにハンジの後ろにいたナナバからも流れでパンを渡された。



「どうせまだ何も食べてないんだろ?ただでさえ痩せてんだから、ちゃんと食べな。昔から少食なのは変わらないねぇ。よし、全部食べるまで分隊長とここで見守っててあげるよ。だからさっさと食べて、私も早く寝たいし」



思わずアサギとハンジがナナバの方を見た。



「ちょ?!なに勝手に……!」

「私も?!ま、私は全然構わないけど。ってか、寧ろそうした方が良さそうだね」



反抗したところで何が覆るわけでもなく、再び二人の熱視線がアサギへと注がれる。
仕方のなくなったアサギは、パンを小さくちぎって口へゆっくりと放り込んだ。



「一番良さそうなヤツをってナナバに選んでもらったんだ。ライ麦のパンだって。非常食用にしては柔らかくていい感じじゃない?少し口の中パサパサするけど大丈夫、スープもあるし!ねぇどう?なかなかいけるでしょ?」

「……おいしい」



『よかった〜』とわざとらしく肩を大きく下ろすハンジだったが、アサギは気付いていた。
明るく饒舌ふるっている間もずっと、その眼鏡の奥がずっと鋭いままだということを。
今日、常軌を逸脱する言動をしたものだから、その所以が気になってのことだろうと、アサギは理解していた。

しかし、別に今更過去のことを、誰かに言ったところで何が変わるでもない。同情なんて要らないし、話すだけ互いの時間が無駄だ。
結局は自分の中で解決しなくちゃならない、それが真実。

――でも、そういうこちらの気持ち、今、目の前にいるこの二人にとっては全然関係なくて。
ただ心配してくれて、ただ側にいようとしてくれて……


これが"人間"ってやつなのかな


「……他山の石って思って聞き流してくれますか」


"友達"や"仲間"って絆が、初めて見えた気がした


「もう、ずっと、ずっと昔の話なんですけど……、」


すごく複雑で面倒くさいのに、とても温かくて安心する―――


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