36. 自暴自棄*


「おい、無事か!」

「―――来ないで」



馬を乗り捨てアサギに駆け寄るも、これ以上近付くなと把持している欠けたブレードをこちらに向けて制止してきた。


その浴びてる血は巨人の血か
お前にケガはないのか
助けに来たのに『邪魔』をするなとは、どういうことだ
ここで、何があった


ったく、こいつには全く頭を悩まされる事ばかりだ……

とにかく、ここを離れなければ。
また別の巨人が来ると面倒だ。



「アサギ、行くぞ。こいつはもう死んでる……おい、聞いてんのか!」

「まだ死んでないから……」

「お前何やって、?!」



突然、アサギは巨人の死骸胸部にその欠けたブレードを突き立てた。
圧迫され、巨人の口からは血液などの熱い体液が押し流れて、その胸元に滴り落ち、蒸せるような蒸気を放つ。



「そんな簡単に死んでんじゃないわよ……!私が、今日までどんな思いで生きてきたと思ってんのよッ!!私の全部をぶっ壊しといて!!そんな簡単に……。殺しても殺しても、何回殺しても足りないんだから!!」



ただの死骸となった巨人の塊に泣きながら叫ぶアサギを見て、俺は……やはり動けなかった。



「だから……リヴァイ兵長、私は……、ここに残ります。―――さようなら」



彼女は背を向けたまま、消え入るようにか細い声でそんな台詞を吐き捨てた。

アサギに想いを寄せている癖に、いつもと著しく違う様子を見ると、どうしたらいいのか分からなくなる。
慰めればいいのか、怒ればいいのか、若しくは同情すればいいのか……分からない。
ただ、分かっているのは、目の前で自分の想い人が今にも自害せんとばかりに自暴自棄となっているということ。

――死なせるものか!――



「職務中に勝手な行動は許さん。馬に乗れ。今すぐにだ」

「……」

「おい、聞こえねぇのか」

「……馬はとうに放ったので、私の乗る馬など、」

「最初から俺の馬に乗れと言っている。つべこべ言わずさっさとしろ」



アサギは口を閉ざし、目を合わせることなく、ただ俺の命令に従い馬に乗った。
高圧的な態度で押さえ付けてしまったが、致し方ない。
今はこれでいい。

すると、遠くでこちらを傍観していたハンジが、急に目の色を変え駆け寄ってきて耳打ちしてきた。



「リヴァイ、今まで頭の中で散らばってた疑問が線で結び付いた気がするんだ、アサギのこと!だから今彼女を一人にするのは危な過ぎる!要するに、」

「分かっている。首でも掻っ捌きそうにでもなったら、その前に腕を縛ってやるさ」



そう言ってアサギの元へと足を進めると、尚も威圧的な物言いでアサギに畳み掛ける。



「おい、もっと前に詰めて乗れ。誰が一人で乗っていいと言った」



色を失った虚ろな瞳は、声のする方を向くことなく、言われた通り少し前にずれて座り直した。


一番近くにいるのに、果てしない距離を感じる

これほど歯がゆい想いをしたことがあっただろうか

心に触れることは出来なくても、

俺は傍に居る

それが伝わることを祈り、背後から血塗られた体をそっと包み込んで馬を走らせた―――


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