35. 因果応報*


兵団に入ってから、立体起動装置を使える一介の兵士になったとはいえ、巨人とまともに戦ったことなんて無かった。
調査兵団に鞍替えして以来、毎日のように戦闘訓練をしていても、所詮は"訓練"。
壁外に出て実際に戦う不安は払拭できずにいた。
元々自分に自信がある訳でもなかったし。
ただ生きる目的を果たすんだという気力だけで、今日まで何とか命を紡いできただけ。

――そう思ってた



『分隊長!外側から巨人!2体、うち1体は奇行種!……更に後方からもう1体別の奇行種!あ、アサギさん!』



体が勝手に動いてた


その奇行種を見た瞬間、
浅ましくも心火の限りを燃やし尽くした私の心をカモフラージュするために塗り固めていたメッキが、剥がれたかのようだった

あの日の惨劇が鮮やかにフラッシュバックする私の脳内は、

ただ、見覚えのあるそいつを

―惨殺する―

という選択肢しか存在しなくて


それこそが私の"目的"

誰にも邪魔させない―――



その奇行種の前に回り込んで、自らを追わせて近くの林に誘い込んだ。
そうすればハンジさんらには私が進んで囮になって、皆から巨人を遠ざけたと思わせられるし、私一人でこいつを殺すことができる。
無駄に走るのが速い、そのマヌケ面の奇行種は、案の定私を喰らおうと脇目もふらず林へノコノコとついてきた。

早々に馬から木に乗り移ると隠匿してた私物のナイフ2本を投げて、先ずは目を潰して視界を奪った。
そして痛がってかナイフを抜き取ろうとしたその手を、ブレードで切り付けた。
そんなに強くしたつもりはなかったが、入念に研いでいた刃は切れ味が凄く、簡単に何本か指が落ちた。
堪らず闇雲に走ろうとし始めたそいつの、片足の膝辺りを切断して自由を奪い、地面に倒した。

蹲って小さな唸り声をあげる奇行種の、手足切断面からは人間と同じ様に赤く鉄臭い血がドクドクと止めどなく流れ出し、地面に血溜りを作り始める。
その赤の絨毯に足を踏み入れ、その間合いに入り、人間の言葉が分かるかどうかも分からないそいつに向かって話し掛けた。



「ヒトは体の三分の一の血が失われると死の危険があるっていうけど、貴方はどうかしら。それから、今まで食べてきたヒトの数や顔とか、どのくらい覚えてる?そもそも記憶能力ってあるの?例え、貴方にはその能力が無いとしても、家族を貴方に食べられた側としては、貴方の顔を忘れたくても忘れられないってのに、」



突然、奇行種が声のするこちらの方に片手を振り上げる。
咄嗟に切り落とすと、その腕は振り上げた勢いで吹き飛んでいき、遠くでドシンと落ちる音が森の静寂に響いては吸い込まれていった。
思いの外、そいつの首辺りまで切れたようで大量の血飛沫が顔に散り、少し開いていた口に入ったのを、不快に感じて袖で拭った。


私を保ってたものが完全に壊れて無くなったのは、この瞬間だと思う



「まだ話、途中なんだけど。せっかく急所外してやってんのに。意味なくなるじゃない」



こちらを無視するかのように、奇行種は動きを止めず、残った足と指が無い手を地に付けて這って去ろうとし始めた。
深いため息をつきながら、その太腿と最後の腕を切り落とした。
怒りで力が入り、地面までブレードで抉れて、その弧を描く軌跡に沿って血と土が飛散する。
その衝撃で片方のブレードが折れて刃先が飛び、近くの木に突き刺さった。



「だから動くなっつってるでしょ。あの日……旦那はただアンタに食われて、吐き出されて、グチャグチャになって道端に捨てられてた。アンタの栄養にもなってない、ただの殺され損じゃないか。その上、ちっちゃい命まで握り潰して……許さないし、許せない―――でも、私、アンタを殺すって目的だけで生きてきたんだけど、これでアンタ死んだら私、これからどうすればいいの……」



頸動脈からドクンドクンとテンポよく脈拍打ちながら血が流れ出ていたのが、少しずつ、脈の間隔が遅くなってきた。
死に際の奇行種は、喉を切られ唸ることも出来なくなり、ただ静かに地面に転がって死期を待つばかりとなった。

その様子を途方に暮れたような面持ちでぼんやり眺めていたら、私とこの奇行種の空間に、リヴァイ兵長が入ってきた…………


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