24.【演技】*


寒さですっかり冷えた唇を、周囲に聞こえるようわざとリップ音を立てながらしっとりと包み込んでは激しく食む。



「は、ぁ……、」



突然の情熱的なキスに驚きながらも、誘ってくるように咥内を浅く出入りする小さな舌にもどかしさを感じ、複雑な感情が入り交じる。


アサギが何の考えもなくこんなことをする筈がない。
何故ならアサギはアイツの…………


背徳の念から思わず薄目を開けてみるも、彼女は大きな目を閉じたまま、背伸びをして懸命にエルヴィンに口付けをしている。


まだ確信こそないが、相手がどこかのプロの諜報部員だとしたら生半可な茶番劇をしていれば見抜かれる。
故の、この本気の演技、か。
それにしても"今の状況"を忘れそうになるくらい、なんて心地の好い……
ならば、こちらも……


細い身体にがっしりした腕を回し、抱き寄せ身体を密着させると、愛らしい舌に自分のを絡めては、その紅の果実を遠慮なく味わう。

そうしているうちに、尾行してきていた奴らが次々と娼婦らの客引きに引っ掛かっていくのが路地から見え、一瞬安堵した。

ーーーが、待て。
『12時に1』進行方向前方に一人いたヤツは何処へ……

すると、アサギは身体をピッタリ付けたまま、肢体をくねらせ、脚を絡ませるようにしながらドレスのスカートを大胆に太腿まで捲り上げた。
脚の付け根の方に彼女自信の手を滑らせていき、ごそごそと何かをしている。
下着を……ずらしているのか!?
闇夜に浮かび上がるその艶かしさに、これが演技だということを忘れてしまいそうになる。
いかん、どうすれば…………



「(手を止めないで、そのまま続けてください)」

「……ッ!!」



耳を舐め囁く、その腿でエルヴィンの秘所を擦り上げた。
アサギは私が"男"だということを分かってるのだろうかと、暴走しそうになる自身を抑えながら苛立ち紛れに彼女の首筋に顔を埋める。

だが、そこから見えたのは、彼女がスカートの中で把持している拳銃で…………

ということは、残党が何処かに潜んでいてこちらを狙っているということか?!

緊張感が走る。
こんな極限の甘さと辛さが交ざったシチュエーション、長年生き延びてきたが初めてだ。

それでも止める訳にはいかないと、彼女の身体に合わせて大きな手を滑らせていく。



「…………行きました、もう大丈夫です。」



危機は去ったようで、アサギが銃を納め、スカートを直しながら小声で言う。
が、冷たい終了の合図でもあった。
触れ合っていた身体がふっと離れて、再び冷気で包まれる。
何となく、気恥ずかしくて返す言葉に困っていると、通りからさっき怒鳴ってきた娼婦がまだ諦めきれていないようで『新参者!それはアタシの客だよ、返しな!』と仲間の娼婦を数人連れ、捲し立てながら路地に入ってきた。

アサギは小さく溜め息をつくと、エルヴィンの腕を引きながら路地の奥へと走りだした。
そして最初の角を曲がり、すぐそばにあったチープな宿へと二人なだれ込んだ。


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