006
行ったと思ったら、数分で戻って来たベジータ。その手にはトランクスがいた。そのトランクスをソファーの方に放り投げて何もなかったように席に着いた。
「痛っ、何するんだよ!パ、パ……え、First name?」
頭を擦りながら顔を挙げたトランクス。私は呆然と彼を見つめていたが、当人も状況が把握できてないらしく困惑していた。
「ベジータ、どんな風の吹き回し?」
「黙れ。腹が減った」
「ふふふ、はいはい」
嬉しい。ベジータさんが私に気を使ってトランクスを連れて帰って来てくれたことが。でも、きっとトランクスは友人の家で泊まるのを楽しみにしていたに違いない。そんな楽しみ訳も分からず奪われてしまい、混乱している彼に私は何て声を掛ければ良いのか分からなかった。
不安だけが募った。だって「何でFirst nameがいるんだよ?」とか「あーあ、もっと悟天と遊びたかったのになー」とか、そんな風に言われてしまったら、私は泣いてしまう自信がある。
「First name……」
「トランクスくん……」
しかし私の思いは良い方に打ち砕かれた。彼は満面の笑みを浮かべて私に抱き付いてきた。
「First name!来てるなら言ってよ!そしたら、飛んで帰って来たのに!」
「トランクスくん……ッ」
私は感極まって抱き締める力を強くした。
「え、First name?どうした?」
「どうしたじゃないわよ、トランクス。First name、昼からずっと、あんたのこと待ってたのよ」
「まじかよ!あー、今日は悟天の所行くんじゃなかったなー」
友人よりも私を優先してくれるらしい発言に嬉しくて照れ臭くて、トランクスの肩口に顔を埋めながら思わずニヤけてしまった。
「First name、ぎゅうってしてんのは嬉しいんだけどさ。その……お腹空いたんだよね」
トランクスのお腹が可愛らしく鳴ったのを聞き、私は体を離して一緒にテーブルに着いた。
ちっちゃいけど、私の大好きな君は、私のヒーローなんだ。
[ 7/141 ][*prev] [next#]
[目次]
[栞]