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03

他愛ない話をして畑に戻っていく祖父の背中を見送り縁側の日陰になっているところで寝転ぶ。カラカラ鳴る扇風機の音が心地良い。


「寝るのかい?」

「ん」


祖母からの問い掛けに既に瞼は下りており、すっと睡魔に引き込まれていった。


ーーーーー


「マンションは?」

「解約してきた。荷物これからこっち届くから」

「ちょっ、今からって」


何言ってるのと怒りを表した母は話がそこまで進んでいると知ると次第に困惑を見せた。私はもう母の顔すら見ず階段を上り自分の部屋へと向かう。


「あー、もう、人がいないからって物置きにして」


大半は私の物じゃない。これから届く荷物が全部入るかと悩む間もなく、これじゃあ入らない。クローゼットには母の服が掛けられていた。


「お母さーん、このお母さんの服お母さんたちの部屋に移すからねー」


一階に向けて叫ぶも返事はこず。まぁ返事なんて必要ない。このままじゃ私の服が入らないのだから。

クローゼットの中を空にして、残りのよく分からないものをどうするかと溜め息をつく。


「そもそも要らない物なら捨てろよ」


どうも進みが悪いなと母に手伝いを求め階段を下りれば誰かと話している声がした。声を潜め、まるで内緒話をしているようなトーンに階段の途中で足を止めた。


「だから、辞めて戻ってきたのよ。今度は冗談じゃないわよ。だってあの子マンションも解約してきたのよ?そう、そうなの。これから荷物が届くからって今部屋の片付けしてる」


電話の相手はおそらく父だろう。私は下りてきた階段を引き返し、もう考えるのも面倒で適当に物を部屋の外に出すことにした。


ーーーーー


ぬっと何やら陰った気がして目が覚めた。薄っすらと目を開ければ祖父が顔を覗き込んでいた。


「うわっ、びっくりした」

「良い歳した娘がこんなところで腹出しながら寝とるから」

「だって暑い」


じっとりとかいていた汗がうっとおしくて、縁側に並べられたサンダルを引っ掛けて庭に設置されてる蛇口へと向かった。もう照りつけるような太陽はいなく、傾いた空は橙色に染まってきていた。


「あー、さっぱり。やっぱ井戸水は冷たくて最高だー」

「さっぱりしたところで、これ。坂の上の陣内さんの家に届けてくれないかい?」

「これ?」


何をと見れば大きなスイカが一、二、三。


「三つも?しかも坂の上って、そこの坂?」

「そうだ。陣内さん、覚えてないかい?」


陣内さん?確か坂の上に大きな家があったのは覚えてる。


「栄さんにはFirst nameも可愛がってもらってたじゃないか。栄さんが今度九十歳を迎えるから親戚の子たちも集まるらしいから。三つぐらい持っていけば足りるだろうよ」


三つぐらいってその大玉を三つは幾ら何でも辛いものがあるのでは。


「おじいちゃんも一緒に来てよ」

「じいちゃんは、ばあちゃんの手伝いと湯の準備だ」


そう言われてしまえば何も言えないじゃないか。一つずつで良いと言われたがあの坂を三往復するのも勘弁してくれと思った。

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