04
趣のあるご立派な門を見上げて暫く立ち尽くしたあと、スイカを抱え直し玄関へと向かう。きょどってる姿はまるでスイカ泥棒な気分だ。
「あー、ごめんくださーい」
呼び鈴を探してみたが、さすが田舎。それらしきものは見つからず、戸を引いて見ればやっぱり鍵は開いていてそこから控え目に声を掛けてみた。
「はーい」
奥から年配の女の人の声が聞こえてきて、ホッとする。
「あら、どちら様?」
着物姿で初老を迎えたぐらいの女性出迎えてくれた。ぴんと伸びた背中にどこか萎縮してしまうのは私が小物だからだろうか。
「あ、坂の下のFamily nameのものです」
「Family nameさんのとこ?あ、もしかしてFirst nameちゃん?」
「え、あ、はい」
閃いたみたいな顔をして私を凝視するが、残念なことに私の記憶にこの人は見つからない。
「あらぁ、随分見ないうちに大きくなったわね。成人した女性に大きくなったは失礼かしら?でも、最後に見たのはまだFirst nameちゃんが、こーんな小さいころ……」
「母さん、玄関で立ち話も良いけど、スイカ、重そうだよ?」
スイカの重さにそろそろ限界を感じて長引きそうな話にまじかとげんなりしてた時、背後から低い声が掛けられた。
びくりと肩を跳ねさせ小さく悲鳴を上げた私は反射的に振り返った。
「ひっ」
大袈裟な反応をしてしまったのは、あまりにもその低い声が耳に近かったから。だから背筋を走ったぞわりとした感覚は決して感じてしまったわけじゃない。
「理一、早かったじゃない。明日じゃなかった?」
「そのつもりだったんだけど、早く仕事が終わったから」
その男の人は重さなんて感じていないのか軽々と私の手からスイカを取った。
「これ、どうしたら良い?」
首を傾げて聞いてきた男の人はお兄さんというよりも、もうおじさんという年齢なはずなのにその仕草に苦なんて欠片も見えなかった。
「あ、えっとおじいちゃんが陣内さんの家に持ってけって」
「まぁ、いつも悪いわねぇ。First nameちゃん、茂市さんと菊さんによろしく伝えてね」
「First nameちゃん?あぁ、Family nameさんとこの。随分綺麗になってたから分からなかった」
何を言うんだ。
「小さい頃も可愛いかったけどね」
何を言うんだ!
このオジサンやりおると目を細めて見れば、そんな視線も気にせずスイカを玄関に置いた。
「坂の下からじゃ大変だったでしょう?今、お茶いれるわね」
「あ、大丈夫です。あと二つ持ってきますので」
背を向けた女の人に言えば「あらそんなに?」と首を傾げられてしまった。その姿はさっき男の人とそっくりで、そういえば母さんとか言ってたななんて思った。
「あ、なんか親戚の人が集まるって聞いたんで」
「えぇそうなんだけど、三つも悪いわ。それにFirst nameちゃんも大変でしょう?」
それはもう大変ですよ。大玉のスイカを持ってあの坂を三往復なんて。でも。
「あはは、大丈夫ですよ」
なんて言ってしまうのはもう私の諦めた性分ですから。
「そう?あ、だったら理一。あなたちょっと行ってきなさいよ。ほら、ついでにお礼のお茶菓子も持っていきなさい」
ぱたぱたと家の奥に行ってしまった女の人に私もその息子らしき男の人も口を開く隙さえなかった。
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